陸. トミに「つむじ」と名付けられた栄螺鬼は、やがて龍臣と姉弟のように育っていった。 龍臣が学校に行っている間は乳母のもとで仕事を手伝い、龍臣の帰宅とともに手を引かれて儂のもとへやってくる。そのような日が日常となり、瞬く間に自分より小さかった龍臣と目線が同等になると、つむじはその変化にいたく驚いていた。 「前にも言うたであろう、人とは成長するものだ。歳を重ねるほどに体が変化し、此奴も今にお前を見下ろすようになる。悔しければお前も早う人に化けてみよ」 「ふふ、そうだよ、成長期っていうんだって。僕はこれからもっともっと大きくなるんだって、トミも言ってたよ」 「ぴぇ! それじゃあ坊ちゃんも、おやびんみたくこぉんなに大きくなるんでやんすか!」 「そうだよ!」 「見栄を張るでない。お前は成長しても、せいぜい五尺六寸程度であろう。龍真もそうであった。人はある程度成長しきると成長が止まり、それからは緩やかに老いていく。そういういきものなのだ」 「“老いていく”とは何でやんすか?」 「お年寄りになるんだよ」 「“お年寄り”に化けるんでやんすか?」 「年寄りとは、トミのようなもののことを言うのだ。人は長く生きただけ、肌に皺が寄り、腰は曲がり、指はふしくれ立ち、やがてものの考えが鈍くなくなる。子供に戻る、とも人間どもは言うようだがの。その喩えは実に的を射ている」 「へぇ……おいら、ばあちゃんは生まれた時から皺くちゃなんだと思ってたでやんすよ」 「あははっ、違うよ。あとでトミが若かった時の写真を見せてあげる。僕、ある場所知ってるんだ。だから僕の手もそのうち、トミみたく皺くちゃになるんだよ」 そう言って龍臣が手を差し出すと、つむじは興味深げにふくふくとした手を取って眺めた。 そして、はたと気付いたように顔を上げる。 「それじゃあ、“お年寄り”の次は、人間は何になるでやんすか?」 この問いかけに、龍臣が強張るのを感じた。 後で教えてやる、と口を挟みかけ、ふと栗色の小さな頭を見下ろす。 今でも洟垂れ小僧とからかってはいるものの、龍臣ももう、人の生き死にがわからぬ歳ではない。 しかし、此奴は他より多く“もの”を見る目があるばかりに、無駄な期待を寄せさせるような言い方もできぬ。 どう話したものか、と考えを巡らせていると、龍臣が俯いていた顔をぱっと上げた。 (22/43) 前へ* 最初へ *次へ栞を挟む |