スーロとのコンビは理想的だった。
ウタヨミの力を借りると、体がまるで羽根のように軽くなる。見えているのに、あと一歩遅い、届かない、と苛立っていたのが、あいつの力を借りると何もかもが思い通りに動く。
それに、初めての前線で情けなくも腰が引けてる俺を、あいつはいつも上手いこと焚きつけた。
「大丈夫、ユニは強いよ」
「たりめーだ」
「まぁこんなん朝飯前だよね? よっ西国一の色男!」
「たりめーだ!」
「よーしほんじゃ今日も一発戦ってくれるかなー!?」
「いいともー!!」
こんな調子で戦場に居るもんだから、仲間にはよく気が抜けるからやめてくれと叱られた。
それでも、俺たちはこの調子でやり続けた。毎日のように友が命を落とす荒んだ戦場で、正気を失う奴も少なくはなかったが、俺はこの底抜けに明るい相棒が居たから、なんとかやってこれた。
俺はスーロの力を借りて、やっと自分の価値を見出した気がしていた。
あいつが居れば俺は無敵だ。どこまでだって、この長い長い戦争を終わらせることだって、出来るはずだ。
ウタヨミの力を借り、戦果をあげ、敵を減らして――そうしているうちに、俺は、スーロが隣に居るのが当たり前だと思うようになっていた。
あいつの力が、もはや自分のもののような気がしていたんだ。
そして俺は、その過信に足元をすくわれることになる。
次の任務地は、ひどい戦場だった。
何組もの小隊が当たって砕け、土は血の香りを含んでいる。
東にひどく腕の立つやつが居るらしく、防衛線を守るので精一杯、手も足も出ないらしい。
その化け物みたいな奴らを仕留めるため、能力を奪うウタヨミや、敵の動きを止めるウタヨミ、意識を乗っ取るウタヨミと、化け物退治に使えそうな奴らとそのパートナーたちが集められた。
俺らはといえば、いわば囮だ。攻撃を受け、絶え間ない攻撃で体力を奪い、敵の疲弊を待ち隙を見て一気にカタをつけるための繋ぎ役。
だけど死ぬ気はなかった。見えてりゃ後は何とかなる。今のところ、戦場で俺の目に留まらないほどの攻撃を繰り出す奴には遭遇していない。
この頃にはもうスーロに焚きつけてもらう必要もなくなっていた。俺たちは目と目で頷き合い、じりじりと敵との距離を詰めていく。
俺の仕事は、真っ先に切り込み遠距離武器を使う奴らを叩くこと。矢だろうが弾だろうが、見えてりゃ俺には叩き落とせる。
スーロの歌に力が漲る。初めて会った時聞いたお遊戯歌ではない、戦士の士気を高める、本物の戦歌だ。
限界まで張り詰めた戦場の雰囲気、スーロの歌に、体じゅうの血液が興奮に煮え立つ。命をかけた戦いが始まった。
いくつもの部隊を壊滅させただけあり、戦いは苦戦を強いられた。
こっちもいくらかダメージを受けた。いくら目が良くたって、さすがに死角からの攻撃は防ぎようがない。
見渡せば、押していたはずの戦線はすっかり西側に押し返されていた。矢を受けた左肩を押さえ、一旦建て直そうと振り返る。
その時、視界の端できらりと光るものを捉えた。
素早く振り向き、短剣で攻撃を受ける。東の剣士が詰めてきていた。
「くそっ!」
悪態をついて、血をまとった刀を押し返す。東の剣士は皮肉な笑みを見せ、同じく態勢を整えた。
ギラギラ光る眼の奥の闘志に、思わず身震いをする。
この時感じたものは、命を失うことへの恐怖ではない。強いものと刃を交えることの出来る、喜びと興奮だ。
軍学校を卒業する時、教師に言われた言葉がふと蘇った。
なぜ故郷の人間の中で自分だけが残ったのかと訊く俺に、教師はこともなげにこう言った。
「お前は戦場でこそ生きる人間だ」と。