01






ほら、星ひとつ。




この手を伸ばしても、空に浮かぶ星も月も掴めない。


目に見えているのに、俺の手はただ空を切るだけ。





藍染が黒崎一護に敗北した今、

虚夜宮はハリベルが統治し、俺はただ時の流れに身を任せるだけだ。





強ェ奴もいねえ。

戦う相手もいねえ。





「つまんねぇな…。」






そう思ったとき、俺の中で一人の女がよぎった。





そして俺は意を決して現世へ降り立った。







向かった先はとあるアパート。


たやすく壁を抜ければ、静かに寝息を立てるなまえの姿。





手を伸ばして、その寝顔を撫でる。

彼女のぬくもりが、俺の心を溶かすような気がした。





「ん…、…ぐりむ、じょー?」



「悪ィ、起こしたか?」




「ううん、なんか今日は来てくれる気がしてたんだよね〜。」




寝起きで寝ぼけながら、へへへと笑ったその顔を見て、

俺は思わずその体を抱きしめた。



きつく、きつく。

その存在を確かめるように。




「どしたの?グリムジョー。


今日は、甘えんぼさんだね?」




「…なんで星は捕まえらんねぇんだ?


見えてるのに、目の前にあるのに。」






お前がこんなに愛しくて、


こんなに近くにいるのに。








俺はお前とともに歩けねぇ。


俺はお前を幸せにはできねぇ。




俺たちが交わることは、ない。







「星、かあ…。


ちょっと待ってて、あたしがあげる。」




「あァ?」





素っ頓狂な声が出た俺を他所に、

ベッド脇の棚をなにやらゴソゴソと探し始めた。




「あっ、あった!


これ、グリムジョーにあげるよ。」




「…なんだこれ、星のカケラ?」





にしては、少しいびつで、

だいぶ前に塗られたであろう金箔もほとんど禿げていた。





「これ、あたしが小さい頃作ったの。

大切なものだけど、グリムジョーにあげるね!」




「んな大事なもん、もらえっかよ。

お前がもってろよ。」




「わかってないなあ、

大切だから、あなたに持っていて欲しいの。」





悲しいけど、あたしはきっと将来、

あなたより先に死ぬでしょうね。


そしたら、あたしたちは今までよりもっともっと、

遠い存在になっていく。




そんなとき、これがあればあなたは独りじゃない。



ひとりじゃないんだよ、グリムジョー。










虚圏への帰り道、

なまえの言葉を何度も反復した。



拳にぎゅっと握った中には、あの星のカケラがある。





俺らをつなぐ、ひとつの星だ。


2014/03/24
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