動揺して後回しにしてしまっていたが、サボくんは全身薄汚れていた。それに怪我もしている。
 私は彼をお風呂場へ追いやると、コンビニで消毒液や絆創膏、それから最低限の衣類──もっとも大人用なのでサイズは合わないだろうが──を買った。

 部屋へ戻ればサボくんはすでにシャワーを終えて、濡れ髪のままベッドにちょこんと座っていた。汚れた服を着るか迷ったすえ、タオルで体を巻くに留めたようだった。

「これ、サボくんのお洋服と下着。ちょっと、いやだいぶ大きいだろうけど、うちには女物しかなくて」
「あ、いや。ありがと」
「お腹は? 空いてる?」
「へーきだ…です」
「あはは、普通に喋っていいよ。それならごはんは朝に食べようか」

 サボくんの髪を乾かし、手当てをして服を着せ、ベッドへ入るよう促す。
 先程からサボくんの瞼はとろとろと重たげで、今にも眠ってしまいそうだった。まどろむ瞳を指でこすりながら睡魔に抗うさまは可愛らしいが、さすがに限界だろう。

「おねえさん……は、寝ないのか?」
「もう少ししたらね。先に眠ってて」
「そっか。……おやすみ」
「おやすみ」

 間接照明だけを残し電気を消すと、やはり疲れていたのだろう、すぐに小さな寝息が聞こえてきた。あどけない寝顔をちらと見てから、そっと立ち上がる。
 洗濯するからと言って預かったサボくんの服を調べるためである。




 期待に反して、手がかりは何もなかった。どこかしらに彼の家族や学校などに繋がるような情報があればと思ったのだが、そう甘くもないらしい。
 持ち物といえば、ポケットの中に折りたたまれてクシャクシャになった紙切れ一枚と、見たこともない意匠の硬貨がいくばくかあっただけだ。

(やっぱり朝にでも警察に連れて行くか。いや、今から交番で事情だけでも説明して……)

 帰りたくない。そう訴える少年の表情は逼迫していて、ちょっと家族と喧嘩した……という程度のものではなさそうだった。
 それにあの怪我。お風呂上がりのサボくんを手当てした際、まじまじと患部を見たのだが、酷いものだった。擦り傷や小さなあざはともかくとして、背中の大きな打身と脇腹の創傷は、子供が遊んでいてこさえる類いのものではない。
 そのような状態であるのに、少年は怪我の痛みを訴えるでもなく、ただ家に帰りたくないのだと乞い願うのだから、どう考えてもおかしい。

 だからこそこうして、無理に家へ帰すのでもなく、泊まるよう言ってしまったのだが。果たしてこれが最善なのかどうか、まったく自信がない。下手をしたら私は誘拐犯だ。

 それにしても、彼のポケットにあったこの紙切れはなんだろう。何かの地図のようだが、まるで見たことのない地形で──……

 もう限界だった。煩悶する私の思考も、睡魔に負けてとろとろと溶けていってしまう。
 こうなってしまったら仕方がない。難しいことは明日起きたらまた考えよう。なんと言っても、今日は忙しい一日だったのだから。とにかくそういうことにして、私は思考を放棄した。

 重たい体に鞭を打ち、どうにかベッドへ擦り寄ると、寝息をたてるサボくんの隣へ身を横たえる。子供の体温に染まったシーツはあたたかく、すぐに夢のなかへと引き寄せられていく。

 まどろみに揺れるなか、葉擦れの音だろうか、潮騒にも似た音がどこからか聞こえた気がした。



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