小説 | ナノ


▽ 04 かくれんぼ


ナルト優位の鬼ごっことはうってかわって、かくれんぼでは権兵衛が鬼でいる時間がぐっと減った。代わりにナルトは延々と権兵衛を探す羽目になった。権兵衛が隠れる場所はどれも秀逸だ。巨木の虚であったり、自然と出来ていた穴に自分が入った後、木の枝で編んだ網目に木の葉をかぶせた。傍から見れば穴は完全に風景と一体化しており、こればかりはナルトも見つけることが出来ず権兵衛に声をかけてもらって見つけ出したという…。ナルトにとっては演習さながら、権兵衛にとっては完全にお遊び。けれど、学ぶことも大いにあった。無理に小さな隙間を選ぶのではなく自分の体に合った隠れ場所を選ぶこと。自らをすっぽりと隠して外界から隔絶するのではなく、少しばかり視野を残して、こちらからも相手の動向を伺うこと。木の上なんかに身を潜ませる時には痩せた木ではなく、青々と茂った木々を選び、枝の根元に身を潜める。枝先よりもしっかりとしているために木が軋むことも少なく、相手の頭上から動向を探れる。相手の上をとるのはどういった戦略の上でも有効だ。これがかくれんぼではなく、忍同士の化かし合いであるなら覚えておくと良い、権兵衛はいろいろなことを教えてくれた。
「あぁ、でも。これだけは覚えておいて!」
権兵衛が人差し指をたててナルトに詰め寄った。これがもし敵対する忍同士の攻防であるなら逃げられるなら逃げの一手を選べ、と。隠れる、という行為はあくまで相手を振り切れない、もしくは撒くための手段に過ぎない。命の危険がある場合には逃げるほうがリスクは下がる。己の脚力が相手を十分に振り切れる場合にはかくれんぼではなく、まず鬼ごっこを選べ。
「どっちも変わんねぇって」
「さっきの鬼ごっこで私に気付かない内に近づかれたでしょうが!」
能天気に言うナルトに目尻を釣り上げて権兵衛は言う。いや、叫ぶ?
(と、とりあえず、これも初めて見る表情――だってばよ…)
うっすらと眉間に皺を寄せて頬に流れる汗がするりと顎に伝った瞬間だった。
「私が殺意を持って近付けばナルトは死んでたんだよ」
さっきとは違う神妙な面持ちで権兵衛は語る。
「隠れることは安全策だって安易に考えがちだけど、その場にとどまる限り相手に追撃のチャンスを与えていることを忘れないで」
「でも逃げ切れない時にはどうするんだ?」
「うん、十分に起こり得る。身を潜めるのは弱者が逆転できる起死回生の一手でもある」
素直に感じた疑問をぶつけるナルトに、向けていた人差し指を下ろしながら権兵衛は続ける。例え格上の相手でも予想もしないところから攻撃されれば一瞬でも隙が生まれる。そこを突いて好機を得るのだ。
「だからこそ!より勝機を得るために身を潜める手段は多く!質は高く!」
そこからは何故か子供の遊戯ではなくナルトの特訓になってしまった。
虚を突く手段は身を潜ませるだけではなく忍術を使っても有効である。例えば変化の術で森に棲む動物に変化すれば相手の油断を誘うし、分身の術で相手の注意を分散させれば余裕を奪える。ナルトが未だ使えない忍術に対しても知識だけは、と教えてくれた。
「うぅ…、権兵衛はどうしていろいろ知ってるんだってばよ…」
多種多様な手段を講じる権兵衛はとても同年代に思えなかった。そこではたと気付く。
「そもそも権兵衛って何歳なんだ?」
もう疲れたと言わんばかりに尻もちをついたナルトが権兵衛を見上げながらに問う。
「4歳」
「えっ!オレと同じ!!?」
簡潔に返す権兵衛に驚きを隠せないナルト。しかも私の方が後に生まれてるよ、と小さくこぼす少女に今度は驚きではなくがっくしと首をうなだれる。何故、会ったばかりの少女が自分の誕生日まで知っているのか気付けず、ナルトはしばし己の世界で落胆していた。
「私の場合は身を守る手段だったから。命がけで覚えさせられただけだよ…」
励ましの言葉なのか、困ったように笑いながら権兵衛も膝を折り目線を合わせてくる。首を起こしたナルトはじっとりとうらめしそうに権兵衛を見つめていた。
「ぜってーに…」
「ん?」
小さくこぼすナルトに権兵衛が耳を傾けると。
「ぜってーに権兵衛の隙を突いてやるってばよぉっ―――!!!」
勢いよく立ち上がって空に向かって両の拳を突き上げる。権兵衛は最初、目を大きく見開いてナルトを見上げるが、次には優しく微笑んで
「じゃあ特訓だね」
楽しそうにこぼした。



少年は後に意外性No.1などと揶揄を込めた称号を得るのだが…。
二人ともまだ、それを知る由もなく。



望月の兎

かくれんぼ





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