小説 | ナノ


▽ 03 挑戦状


月を眺める少女を横目でそっと盗み見た。
白く長い睫毛に縁取られるその双眸はさっきとは変わって優しい温かみを帯びた光を放っている。同じ紅であるはずなのに、先ほどの印象とは違う。秋の夕暮れの陽を思わせる。青磁のような白い滑らかな肌は、触れればつややかなのだろう、と思わず手を伸ばしたくなるような…。
ナルトは初めて感じる自分のなにかに焦燥感を覚えた。そのとき
「なぁに?」
気付くと少女の双眸は自分をとらえ、言葉を発していた。言葉の意味が分からず一瞬 混乱しているとすぐにその答えは分かった。
「あ…」
自分の手が彼女の腕を掴んでいたのだ。なんと言って良いのか分からないナルトは頭の血液をフル回転させて手近な話題を探す。
「か…隠れるのが下手ってどういうことだってばよ?」
顔に笑みを貼り付けて、心なしうっすらと汗をかきながらそう言った。権兵衛はパチクリとゆっくりとまたたきをするが、すぐにそれはねと笑顔で答えた。いや問い返した。
「動物を探すとき、ナルトはどうやって探す?」
「そんなのいそうなところを歩いて探すってばよ」
腕を頭の後ろに組んで当たり前だろと言わんばかりに目を狐のように細めた。
「なにを使って?」
「なにって…、自力で探すかしかないってばよ」
「うん、自分のなにを使ってる?」
答えを焦らされるのはあまり好きではない。早く教えてくれれば良いのにと思いながら指を折りながら言葉を紡ぐ。
「…歩いてるから足つかってるだろ、あと草むらにいそうなら手でかきわけるし」
草むらに顔を出す兎を追いかけた時はどうしたか、一つ一つ詳らかに思い出していく。そこで、あっと気が付く。
「草の音がして、そっちの方に向かった」
「耳を使うよね」
うん、と頷いた。
「私たちは目に頼りがちだけど、他にも手がかりはたくさんあるんだ」
今ナルトが言ったようにその動物が発する音であったり、匂いであったり、手探りの時には触覚も駆使することだってある。忍は特にその五感を研ぎ澄まし索敵することがある。故に姿をくらませる忍はより技術を求められる。
「ナルトは視覚のことを意識しすぎて、姿は隠れても隠れにくいところに隠れてるんだよ」
同じ言葉を数度、繰り返されてナルトは頭の上にクエスチョンマークをいくつか並べた。それを見て権兵衛は一つ一つを説明していく。木の葉の下なんて少し動けば葉擦れの音が出てしまうし、細い木に登れば重心の移動だけで木全体が揺れてしまう。上手く隠れるにはまずと権兵衛は続ける。
「息を殺す!」
権兵衛に指を指され、ナルトは頬を膨らませてグッと息を止めた。ややあってしばらくすると…。

――ブハァッ!!

「ど、どれくらい…、―ハァッ、止めてればいいんだっ、てばよ」
権兵衛は笑顔を作りながら
「そんなに息を荒くしたら見つかっちゃうよね?」
その言葉に

――ムッキィー!!

「じゃあどうすれば良いんだってばよっ!!」
荒げるナルトに権兵衛は声を出して笑った。
「出来ないことを無理にやっても上手く行かないよ。息を殺すって言うのは息を止めることじゃないよ」
相手に違和感を感じさせないように。呼吸はゆっくりと薄く、体は動かさず物音をたてないように。権兵衛が目の前にいながら実践をする。目の前に立ちながら音が消えていく。存在が希薄になる、という訳ではない。森と同化すると言ったほうが適しているか。目の前にいるのに権兵衛は景色の一部になった。
「そんなのすぐ見つけられるってばよ」
しかし、子供のナルトはやはり視覚に頼っていて、見えるのなら探すのは容易だと判断した。

権兵衛はニッと笑ってナルトを挑発的に見つめながら言った。
「かくれんぼしよっか」



望月の兎

挑戦状







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