小説 | ナノ


▽ 02 鬼ごっこ


「権兵衛はどうしてオレのことを知ってるんだってば」
「父さんが教えてくれた」
ナルトは目を細め、腕を頭の後ろで組みながらウーンと唸った。
「じゃあ お前の父ちゃんは誰だってばよ?」
「――っ」
権兵衛は思わず開きそうな口をおさえ必死に言葉をのみこんだ。父のこと、ひいては自分のこと。ナルトへの絶大な信頼が権兵衛の口を軽くしようとするが、生前、父が残した言葉がそれを止める。
「秘密――」
権兵衛は眉尻を下げて困った顔をしながら、もしくは申し訳なさそうに微笑った。その態度に押しを強くすれば口を開くかと思ったが、ナルトはそこで言及するのをやめた。何故かは分からないが訊いてはいけない気がしたのだ。小さく溜め息をこぼして、じゃあと話題を変えた。
「鬼ごっこしようってば」
突然の申し入れに権兵衛はきょとんと時を止めた。
「オレってば一人でいることが多いからさ…」
それに対してナルトは左目を少し閉じて言いにくそうに
「さっきのがすげぇ楽しかったんだってばよ」
けれど嬉しそうにそう言った。権兵衛はじわじわと背中から肩、首から頭へと痺れるような感覚を覚えた。その疼きが頭まで届いたとき、息をぐぅっと吸って言葉とともに吐き出した。
「うん、やろう!」
権兵衛は年相応の満面の笑みで、ナルトも答えるように笑顔になる。



やることが決まると二人の行動は早かった。早々に鬼を決めて駆け出す。ナルトが鬼の時にはすぐに権兵衛に追い付き、権兵衛が鬼の時にはなかなかナルトを捕らえることができない。遊戯は一方的な争いになるかと思われた。権兵衛が鬼の時には身体的な能力の差異からナルトを捕らえることは難しい。ナルトは後ろから追う影がなくなると、こそこそと見つかりにくい場所を選んで隠れた。しかし、権兵衛がようやくナルトのいるところまで追い付くとすぐさまナルトが隠れている方へと近付いてくるのだ。最初はたまたまだろうと隠れ続けたが、権兵衛は見る見るうちにナルトの元へと辿り着きポンと肩に手を置いた。
「つかまえた!」
同じことは何度も起こった。さすがにナルトも警戒して権兵衛が近付いてくると見つかるのも厭わず逃げるように駆けた。何度も繰り返していると今度は権兵衛の方が学習をして身を潜めながらナルトを捕まえるようになったのだ。逃げれば追い、隠れれば見つける。二人の鬼ごっこはさながら忍の演習のように繰り返し行われた。何度、鬼を交代しただろうか月が半ばまで低くなった頃、おもむろにナルトが口を開く。
「どうして権兵衛はそんなにすぐ見つけられるんだってばよ!!」
足を放り出し、もう立てないとばかりにナルトは叫んだ。その運動量は権兵衛の倍の倍だろうか。かたや索敵と隠密に磨きをかけ、それに対してナルトの武器は素早さと持久力スタミナだけだ。さすがにもう無理。と己の上半身を草むらの上に転がした。それを見て権兵衛も隣に腰掛け両足を放り出す。
「だってナルト、隠れるの下手なんだもん」
権兵衛はナルトの方へ視線を向けながら微笑んでいた。空に浮かぶ月の様に優しく、もしくは小さく輝く星々の様につつましく。その表情にナルトは下手と言われ口惜しいはずなのに、何故か胸がむずがゆくなった。それは困ったでもない、申し訳なさそうでもない。初めて見る本当の笑みだからだろうか、それとも…。
「次はぜってぇー!負けねぇってばよ…」
自分の目元を隠すようにナルトは右腕を顔に置いた。



腕で隠しきれない頬が小さく朱くなっていた。月のほのかな明かりでその色は隠れてしまい、権兵衛はそれに気付かないまま遠い月に目を移す。

望月の兎

鬼ごっこ





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