かけっこ





「ラブラモンって本気で走ったら速そうだよね」

「そうでしょうか…」

「テリアモンよりは速そうね」

「ぼくはね、速くなくていいんだぁ。はなの腕の中か頭の上にいるから、その辺退化してきたかも」

「なんて、デジモンらしからぬ発言…」



テリアモンがのんびりとそう答えたなら、ポロモンがテリアモンの周りをくるくる回りながらそう言った。
テリアモンはポロモンにぶつからないように耳をぎゅっと抱きよせる。



「だけど、ぼく、ラブラモンにも乗ってみたい!」

「え!?」

「何を言い出すかと思えば…」



テイルモンが呆れたようにそう呟く。
テリアモンは目をキラキラ輝かせて、両手を前に組んだ。



「ラブラモンと草原を駆け回りたいなぁ。きっと気持ちいいんだろうなぁ」

「はぁ…褒められているのでしょうか…何と反応したら良いのやら…」

「おーい、みんなー!何の話してるの?」



そこへチビモンがやってくる。
テリアモンがチビモンに今までのことを話すと、チビモンは唇を尖らせた。



「おれも結構速いんだぜ?」

「えー…」



テリアモンが訝しげに目を細める。
そんなテリアモンの様子に、チビモンがぷりぷりと怒ってラブラモンをぐっと見上げた。



「勝負しようぜ、ラブラモン!」

「勝負…ですか…?」

「かけっこ?だったらぼく、ラブラモンの背中に乗っても良い?」

「良いぜ、幼年期と成長期だからな!ハンデってやつだぜ!」

「…それは、もらうほうが言ってもかっこよくないのですが…」

「やれやれ…」



ポロモンとテイルモンが少し離れたところから冷めた目でチビモンとテリアモンのやり取りを眺めていた。

こうして、開催されることになったラブラモンとチビモンのかけっこ対決。
場所は学校の人がほぼ通らない長い廊下。
ゴールはT字になっている突き当たりの壁。



「テイルモン、よろしくお願いします」

「どうしてわたしが…」

「一番、しっかりしてそうだから!公平を期すために!」

「申し訳ありません…」



テイルモンにぐっと指を立てたテリアモンの下で、ラブラモンが申し訳なさそうに呟いた。
そんなラブラモンの隣で、チビモンは準備体操のようにアキレス腱を伸ばしている。
テイルモンも呆れているとはいえ、頼まれたことは断れず、しぶしぶスタートの号令をかけるために、スタート位置に立った。



「位置について…よーい、ドン」



両者一斉にスタート…したものの、その差は歴然。
ラブラモンがチビモンのだいぶ先を行く展開になり、チビモンは途中で諦めて、ラブラモンのふわふわなびくしっぽを見つめた。
そのラブラモンは…。



「わー!はやーい!草原だったら完璧!」

(しかし…このままでは止まれないかも…)



その時、T字路の横から人が現れる。
一瞬どきりとするものの、よく見れば、それはタケルと伊織、それにパタモンにウパモンで…。
みんなポカンとしながらラブラモンたちを見つめていた。



「なんだ…あれ…」

「わー!テリアモン、楽しそう!」

「しかし、このままではぶつかります」

「危ないだぎゃ」

「…大丈夫だよ」



タケルは考えありげに伊織に笑った。
そんなタケルの様子に伊織が首を捻る。
タケルは一歩前に出ると、ラブラモンの方を向いた。



「待て!」



タケルのその声に、ラブラモンの中の犬の習性が働く。
ラブラモンはタケルの前でぴったりと止まった。



「は…つい…」



しかし、ラブラモンの上に乗っていたテリアモンは、そのまま体を宙に浮かせた。



「うわあああああ!」



テリアモンは勢いあまって、そのまま壁へと突っ込む。
そして、その場にぐでんと伸びた。
そんなテリアモンの体をパタモンがちょいちょいとつつく。



「大丈夫、テリアモン?」

「すみません…」

「うー…お星さまがぐるぐる回ってる…」

「だから、廊下は走っては危険なのですよ」

「肌で感じただぎゃ」



タケルはのびているテリアモンを抱き上げると、うーんと首を傾げた。
そして、わらわらと寄ってくるデジモンたちに声をかける。



「ねぇ、テリアモン、借りても良い?」

「どうぞ、むしろ喜んで」

「ありがとう」



テイルモンがさっぱりとした声でそう言うと、タケルはにっこりと笑ってテリアモンをバッグの中へと入れた。
その代りにタケルの頭に乗っていたパタモンがふわふわとラブラモンの背中に着地する。



「ぼくもラブラモンと駆け抜けたい」

「え…?」

「屋上に行くだぎゃ」

「賛成!」

「はぁ…」



わいわいと屋上へと向かうデジモンたちの背中を見つめながら、伊織がタケルを見上げた。



「ところで、どうするんですか?テリアモン…」

「うん、ちょっとね」



タケルはそう言うと意味深に笑う。
伊織のタケルに対する悩みはさらに深まるのだった…。




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