走れ風のように


「ここにもあの塔を建てやがったのか……!」

 大輔くんは遠くにあるダークタワーを見つめがら、憎々しげに言った。


「あれは?」

 丈さんはゴマモンを抱えながら、そう訊いた。


「デジモンカイザーが建てた塔です」

「ダークタワーって言うらしいですよ」

 ヒカリちゃんと私はあのダサい塔についてそう答えた。


「あの塔のあるエリアでは、イービルリングという輪をはめられたデジモンたちは、デジモンカイザーの言いなりになってしまう」

「それに進化もできない」

「くそ、ぶっ壊してやる!」

 タケルくんの説明に、ヒカリちゃんが悲しそうに目を伏せながらそう付け足した。大輔くんも怒りをあらわにして、拳を握る。


「でも、この雪原を横断しないと……あそこには行けないわ……」

「こんな所を歩いていくのは大変だな……」

「そうだね……」

 いくら冒険してきたと言っても、雪原を渡るなんて機会はそうそう無かった。私たちだけならともかく、伊織くんや京ちゃんもいるし、何よりこのまま進んでいくのは危険だ。あ、大輔くん? まあ彼なら何とかしそうだし……ね?


「スキーとかスケート、持ってきてません?」

「僕もそこまでは……」

「丈さーん、ロープありますか?」

「え?」

 京ちゃんの質問に丈さんが苦笑いしていると、大輔くんがそう尋ねてきた。丈さんは思わず振り返り、大輔くんを見つめる。


「へへーん、俺に良いアイデアがあるんですよ!」

 得意げな大輔くん、ちょっと可愛い。







「スクラッチビート!」

「フェザースラッシュ!」

「ブイモンヘッド!」


 デジモンたちの技で、次々と木が倒れていく。私たちはそれをロープで縛りつけていった。


「ふう……よし、出来たぞ!」 

 大輔くんが額の汗を拭い、満足そうに言った。彼の提案は、雪原に生えている木を倒し、そりにするというものだった。なかなかの名案である。丈さんがロープ持ってきてくれていて助かった。私もふたりを見習わないと!


「これなら早いよね!」

「じゃ、ブイモンたち、頼むぞ」

「あの塔を倒すためだで、頑張るだぎゃ」

「その通り」

 デジモンたちは意気込んだ様子を私たちに見せた。どうやら気合いは十分のようだ。


「アルマジモン、お願いします」

「ふん……」

 そんな伊織くんの労りの言葉に、アルマジモンはそっぽを向いた。まだ機嫌が直っていないらしい。


「湊海様、ご覧になっていてください。本場の犬ぞりというものを……」

「お、お願いねラブラモン……」

 一方のラブラモンは通常運転だった。昨日一緒に見た南極物語、めちゃくちゃハマってたからなあ……。まあ、憧れを持つことは良いことだよね、うん。


「しゅぱーつ!」

『おー!』

 大輔くんの掛け声に、デジモンたちは元気よく答え、そりを走らせた。


「やっほーいー!」

「速い速いー!」

 そりはなかなか快適なスピードで進んでいった。先ほどまでは不快に感じた冷たい風も、今では少し気持ちよく感じる。


「あ……」

 すると、パタモンが小さく声をあげた。正面を目を凝らして見てみると、ダークタワーの前に雪だるまのようなものが設置されていた。


「あれって雪だるま!? たくさんあるよ、かわいー!」

 京ちゃんが嬉しそうにはしゃいでいたが、近づいていくと、その雪だるまの正体が何かわかった。私は思わず身を乗り出した。


「違う、あれは……!」

「デジモンだよ!」

 タケルくんと私はほぼ同時に声をあげた。雪だるま――もとい、ユキダルモンの足には、黒いリングがはめられていた。これはまさか……!?








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