「さあ、今日も張り切っていくわよ!」
「おー!」
京ちゃんの号令に、私は拳を突き上げ意気込んだ。授業が終わり、放課後になったのでパソコン室へと向かう……のだが。
「あーすーかーくーん? 今日は……」
「み、京、ごめん! また明日!」
「あ、ちょっと!」
京ちゃんが肩を組むと、飛鳥くんはそれをすり抜け教室から飛び出していった。今日もまた何か用事があるようで、とても急いだ様子だった。
「もう、何なのよ飛鳥くんったら……」
「どうしても私たちには話したくないみたいだね」
「困ったものだわ」
京ちゃんは小さく息をついた。一応私は飛鳥くんと1番仲が良いと思っているんだけど……、そんな私に話せないことなのかな。少し気分が落ち込むが、彼は彼なりの事情があるのだろう。私は深呼吸して気を取り直し、落ち込む京ちゃんの背中を押してパソコン室へ向かった。
「今日はどのエリアに行く?」
「そうねぇ……大輔たちが来てから決めましょ」
ラブラモンたちとの挨拶を済ませ、軽く会話を交わしていると、パソコンから警告音が鳴り響いた。この音は――。京ちゃんと顔を見合わせ、パソコンの画面を見る。すると、ある黒いエリアからSOS信号が出ていた。
「このエリアって……」
「どうしたの、湊海お姉ちゃん」
「わっ!」
急に後ろから背中を抱かれ、驚いて振り返ると、そこにはタケルくんがいた。
「た、タケルくんいつの間に……」
「あはは、気づかなかったの? ついさっき来たよ」
「あ、タケルくん! 大変なのよ、このエリアからSOS信号が……」
「何だって!?」
タケルくんのにこやかな表情が一変して険しいものに変わる。私たちは再び画面を見つめた。しばらくすると、ヒカリちゃんと大輔くんも合流する。ヒカリちゃんは私たちの様子を見て、不思議そうに近づいてきた。
「どうしたの?」
「デジタルワールドからの、SOS信号が届いているんだ」
「えっ!?」
「僕たちの仲間からだよ」
そのタケルくんの言葉に、大輔くんも真剣な様子でパソコンを見つめた。
「それに、信号が出ているのは黒いエリアからよ。今まで私たちが行った所からは、かなり離れた所ね」
パソコンに映っているマップは大部分が黒く染まっていた。ここに全部ダークタワーとやらが建っているのか……面倒な……。
「デジモンカイザーの支配するエリアが、また広がったってこと?」
「新しい塔が建ったのかな?」
「そうかもしれないね」
ヒカリちゃんとパタモンの疑問に、テイルモンが頷いた。
「デジモンカイザーの奴、こんなに離れた所まで……!」
「こうしている間にも、きっとまた……」
「……よし、みんな揃ったことだし早く行こうぜ。デジタルワールドへ!」
ヒカリちゃんが悲しそうに顔を俯かせると、大輔くんはぐっと拳を握り、みんなに問いかけた。
「みんなって、伊織がまだ来てないだぎゃ!」
するとウパモンが少しむっとしながら、椅子の上で飛び跳ねた。
「あいつは来ねえよ」
「どうしてだぎゃ?」
「剣道の稽古だってさ」
「けんどーって、何だぎゃ?」
ウパモンがそう訊くと、大輔くんはノートを丸めて振り上げた。
「めーん、どーう、こてー!」
「いてえ! 何でたたくだぎゃ!」
いきなり叩かれたウパモンは怒りを露わにして大輔くんにぶつけた。
「これが剣道なんだよ」
「あー?」
「えー……適当だなあ……」
私は半笑いで大輔くんとウパモンを見た。伊織くんが見ていたら色々な意味で怒りそうだ。
そんなやり取りをしていると、バタバタと走る足音が廊下の方から聞こえてきた。
「あっ! やっぱり伊織来ただぎゃ!」
「伊織の足音じゃない、隠れろみんな!」
か、隠れろったって無理があるよ!?
私たちは大輔くんの号令にデジモンたちを抱え、教室中を走り回った。すると、その後すぐ扉の開く音が聞こえたので、慌ててラブラモンを机の下に押し込める。
「せ、せーふ……」
「丈さん!」
「え?」
タケルくんの声に扉の方を見ると、そこには丈さんがいた。
「や、やあ」
「丈さん!」
丈さんはそう挨拶をすると、珍しそうな様子でこちらに近づいてきた。
「聞いてはいたけど、なんか変な感じだな。ここにデジモンがいるなんて」
「みんな、城戸丈さんだよ」
「とっても頼れる先輩だよ! ……多分」
基本的には頼れる先輩だが、たまに抜けているところがあるのでそこはご愛嬌ってやつだ。
「多分ってなんだ、多分って!」
丈さんが苦笑いしながら私の頭を軽く小突いた。
「えへへー」
「へえ、この人が! よっろしくー!」
「なんか偏差値高そうって感じ!」
大輔くんと京ちゃんが興味しんしんな様子で丈さんを見つめ、挨拶をした。それにしても、偏差値高そうってどうなのよ。……まあ京ちゃんらしいからいいか。
「本宮大輔くんと井ノ上京さんです」
ヒカリちゃんがにこやかな様子で2人を紹介する。京ちゃんの方を見ると、ポロモンが縦に潰されていた。ちょっと可哀想だが可愛い。
「さっきデジタルワールドから、SOS信号が入ったんです」
「それはゴマモンからだよ」
「丈さんのデジヴァイスも反応したんですね」
「おかし? おかし?」
タケルくんと丈さんが真面目に会話をかわしている途中、チビモンが丈さんの持つビニール袋を引っ張り始めた。
「だめだよチビモン、勝手に触っちゃ」
私はチビモンを抱き上げた。くっ……でもめちゃくちゃ可愛い……。
「あーおかしー!」
「あ、ああ! これは向こうで食べるんだ!」
「むこうで?」
丈さんは慌てて袋を持ち上げると、苦笑いでチビモンにそう告げた。それを聞いたチビモンは不思議そうに首を傾げた。
「丈さんもデジタルワールドに行くつもりで来てくれたんですね!」
「ゴマモンのことが心配だからね」
ヒカリちゃんが嬉しそうにそう言うと、丈さんは真剣な表情で頷いた。丈さんにSOSが届いたということは、ゴマモンの身に何かあったのかもしれない。無事でいてくれればいいのだが――。
「新しい選ばれし子どもたちが持っているデジヴァイスで、デジタルワールドのゲートを開くことが出来るんです」
タケルくんがデジヴァイスを掲げながらそう説明をした。
「それも、光子郎から聞いてる。向こうにデジモンカイザーという恐ろしい敵が現れたということも」
丈さんは今までの大体の話を聞いていたようだ。さっすが光子郎さん。相変わらず頼れる先輩だなあ。
「じゃあ、ゲートを開くわよ」
「オッケー!」
京ちゃんのその言葉に、私たちはデジヴァイスを構えた。――その瞬間、教室の扉が勢い良く開いた。
「すみません!」
「伊織、遅いだぎゃ! おれひとりでデジタルワールドに行くとこだったぎゃ?」
ウパモンは椅子から飛び降り、伊織くんの前をぴょんぴょん跳ねた。しかし伊織くんはそれより前に丈さんの方が気になったようで、そちらに体を向けた。
「あ、城戸さんですね。わたくし、火田……」
すると伊織くんの言葉を遮るように、ゲートの開く音が聞こえた。
「おい、ゲートが開いたぞ!」
「選ばれし子どもたち、出動おおお!」
京ちゃんがノリノリで指を突き上げ号令をかけると、隣の大輔くんが苦笑いをしていた。テンション高いなあ、京ちゃん……ま、まあ、元気なのは良いことだし……いっか!
こうして、私たちはパソコンの画面に吸い込まれていった。