そして私たちはパソコン室へ戻ってきた。辺りはすっかり夕暮れになっている。
「……きっと、俺が悪かったんだよな。気を使わせたみたいで、ごめんな。ブイモン」
「大輔も少しは成長したんだ」
「え?」
そんな大輔くんとチビモンのやり取りに、私たちはくすりと笑い合った。
「皆さん、ちょっとこれを見てください」
その光子郎さんの呼び声に、私たちはパソコンの画面を見つめた。その画面には白と黒と灰色の四角のドットが浮かんでいる。
「何なのこれ?」
「京くんに借りたデジヴァイスを調べていたら、出てきたんです。デジタルマップのようです」
光子郎さんはマップをアップにすると、鉛筆で白い部分を示した。
「ここ、さっきまで黒くなってたのが、今は白くなっています。つまり、僕たちが塔を倒したエリアですね」
「でも、デジタルワールドの黒のエリアは、もっと広がっているはず……」
伊織くんが不安そうに光子郎さんを見つめた。
「先はまだまだ長いってことか……」
大輔くんが険しい表情でマップを見つめた。とりあえずこの塔を全部倒すことが、当面の私たちのやるべきことだね。
「あ、あの、湊海ちゃん!」
帰り際、大輔くんに呼び止められ、私は後ろを振り返った。
「どうしたの?」
「ちょっとこっち来て!」
「う、うん」
大輔くんにぐいっと腕を引っ張られ、人気のない踊り場に連れて行かれる。大輔くんは腕を離すと、勢いよく頭を下げた。
「……さっきはごめんな。あんな態度取っちゃって……」
「……大丈夫だよ。気にしなくて」
私がそっと大輔くんの頭の上に手を置くと、大輔くんはほっとしたように息をついた。そもそもあれは私がお節介を焼いたせいだし、大輔くんは悪くない。
「……お姉さんがいるの、嫌?」
私がそう尋ねると、大輔くんは少しの間考え込み、ゆっくりと顔をあげた。
「……誰にも言わない?」
「言わないよ」
その私の返答に大輔くんは頷き、言葉を繋げた。
「正直、嫌だって思う時もあるけど……」
「……うん」
「……でも多分、いなくなったら寂しい」
大輔くんは私に背を向けて、そう小さく呟いた。そして私の方を振り返ると、恥ずかしそうに頬をかいた。
「……話聞いてくれてありがとう。俺、湊海ちゃんのこと、大好き」
「ふふ、私も好きだよ! 大輔くんの真っ直ぐな所!」
私たちはにこりと笑い合った。――お姉さんもきっと分かってるよ。大輔くんのいい所。
「私も、嫌いじゃないよ」
「僕も好きだなぁ、大輔くんの真っ直ぐさは」
「え?」
その声の方を向くと、ヒカリちゃんとタケルくんがニコニコと階段の上に立っていた。い、いつの間に……!
「ヒカリちゃん、タケル! で、でも、さっき嫌いって……」
「それは、お姉さんを悪く言う大輔くんなら
嫌いって話。普段の大輔くんは別に嫌いじゃないわよ」
「ヒカリちゃーん!」
大輔くんはヒカリちゃんの元へ駆け出していった。その様子に私とタケルくんは顔を見合わせ、くすりと笑った。
「うん。好きとも言ってないんだけどね」
「あはは、いいじゃない。幸せそうだから」
大輔くんが元気になったのなら、それが1番良いことだよ。きっと。
「おーい、みんな何してんのー! そろそろ帰るわよー!」
『はーい!』
京ちゃんの呼び声に私たちは大きく返事をした。――大丈夫。私たちは大輔くんのこと、大好きだからね。ヒカリちゃんに一生懸命話しかける大輔くんの背中を見ながら、私は頬を緩めた。