私たちは丘の頂上にたどり着いた。しかしそこは崖になっており、先には行けそうにない。
「ここを降りるの!?」
「高すぎる……無理だわ!」
タケルくんとヒカリちゃんが思わず声をあげる。命綱も無しにこれを降りていくのは、私も避けたい。
「ロープか何かあると良いんだが……」
「俺、戻って探してくる!」
ヤマトさんがそう呟くと、ガブモンが後ろを振り向いた。
「待ってくれ!」
すると、ガジモンたちがガブモンの元へやって来た。
「みんな開放してもらったお礼に、俺たちが行くよ」
「ありがとう、じゃあ一緒に行こう」
ガブモンたちが進んだその途端、顔面にうんちが飛んできた。私たちは思わず目を見張り、それを見つめる。この妙に形の良いうんちは……!
「はは! そうはさせねーぞ!」
いつの間にか私たちは、レッドベジーモンたちに追い詰められていた。
「よーし、俺が! 大輔見ててよ!」
「えっ?」
「あいつ、色は赤いけどベジーモンの仲間だろ? そんなに強くないはずだ。俺がかっこいい所見せるから、大輔も元気になって!」
そう言うと、ブイモンはレッドベジーモンの元へ飛び出していった。
「元気って……おい、ブイモン!」
「待て、ブイモン!」
大輔くんとガブモンが止めるが、ブイモンは振り向きもしない。いくら弱くても、一応あれ成熟期だしな――ブイモンひとりで勝てるか……!?
レッドベジーモンは刺のある蔦部分でブイモンを殴ったが、ブイモンはすぐ体制を立て直し、レッドベジーモンを睨んだ。
「舐めたら怪我するぜ。レッドホットマシンガン!」
レッドベジーモンは唐辛子を口から飛ばすと、ブイモンの顔面に当てた。ブイモンはそのまま、地面に倒れてしまう。
「みんな、アーマー進化だ!」
「はい!」
大輔くんの号令で、私たちはデジヴァイスを構えたが、ベジーモンに体を拘束されてしまう。何とか振り払おうとするものの、流石にびくともしない。
「ちょ、離せ!」
「離さいよーん!」
ダメ元でお願いしてみたものの、流石にそこまで頭は弱くないらしい。ふざけやがってこのヘチマが――!
「このー!」
「ふざけた真似を……!」
パタモンとラブラモンが飛びかかったが、例の唐辛子を当てられ、思わず怯む。
「ラブラモン!」
「ハザードブレス!」
レッドベジーモンは追い討ちをかけるように、強烈な臭いがする息を吐いた。
「うわ、この臭い……!」
「鼻がひん曲がりそう……」
「動けんがやぁ……!」
その間にベジーモンたちは、テイルモンたちを捕まえた。
まずい、これで全員身動きが取れなくなってしまった……。私はぐっと拳を握った。この拳をベジーモンにぶつけたいのだが、体が拘束されており、そういう訳にもいかない。
「ご、ごめんみんな……!」
ブイモンはレッドベジーモンに締め付けられながら、必死に声を絞り出した。
「ごめんで済んだら警察はいらねえんだ!」
レッドベジーモンは、ブイモンを地面に叩きつけた。ブイモンは苦しそうに顔面を歪める。
「ブイモーン!」
「大輔……!」
大輔くんは必死に抵抗するが、ベジーモンの拘束は解けない。私の方も何とかしようと試みているが、状況は変わらない。くそ……!
「こいつを今から百叩きの刑だ! よく見とけ! 1! 2! 3!」
レッドベジーモンはブイモンの体を蔦で叩きつけた。ブイモンは痛そうに声をあげたものの、何とか立ち上がる。
「なかなか良い根性してるじゃねえか。だが、いつまで続くかな?」
再びレッドベジーモンは蔦を奮い、ブイモンを痛めつけた。
「4! 5! 6!」
「ああ、見てられない……!」
「俺たちには、何も出来ない……!」
ガブモンが目を背けながらそう呟くと、ヤマトさんも悔しそうに声をあげた。
「離せ! ブイモン……!」
「大輔……!」
大輔くんはベジーモンの重さに耐えきれず、地面に倒れ込んでしまう。ブイモンも大輔くんの名前を呟き、手を伸ばしたが、再びレッドベジーモンに叩きつけられてしまう。
叩かれる音と、ブイモンの叫び声、レッドベジーモンのカウントがずっと辺りに響き渡る。
「離せって、この……!」
めげずに抵抗してみるものの、ベジーモンはびくともしない。 ニヤニヤ笑いやがって、頭にくるなこいつら……。
その間にもブイモンはずっと傷つけられている。みんなは見ていられないようで、目を固く瞑り、頭を抱えていた。私だって出来れば見たくない。――でも、何もしない訳にもいかない……!
「76! 77! 78!」
「負けるもんか……」
ブイモンはレッドベジーモンを振り返ると、ゆっくりと立ち上がった。
「ここで音を上げたら、大輔、余計落ち込んじゃう……!」
ブイモンがそう言い終わるや否や、レッドベジーモンは再びブイモンを殴った。
「やい! てめえ! やるんだったら俺を代わりにやれ!」
「大輔!」
大輔くんはそうレッドベジーモンに叫んだ。
ブイモンが蔦を避けると、レッドベジーモンはダークタワーにヒビを入れた。
「た、頼むよ! ブイモンを助けてくれ! なあ、いいだろ!?」
「美しい友情か? だが心配はいらねえよ。こいつが終わったら、次はお前の番だ!」
大輔くんの懇願も、レッドベジーモンは聞き入れようとしない。そして再び、ブイモンを痛めつけ始めた。
「98!」
「やめろぉ!」
大輔くんの叫びが辺りに響き渡る。
「俺が進化出来たら……!」
「反応してない……」
「ダメか……」
ヤマトさんが悔しそうに視線をデジヴァイスに向ける。ガブモンはがくりと肩を落とした。
「99!」
ブイモンはダークタワーに叩きつけられた。ダークタワーのヒビが一層広がっていく。
「ブイモン!」
「よく耐えたな。だが次のが最後だ! 地獄に行けー!」
『ブイモン!』
レッドベジーモンは懇親の一撃を放ったが、ブイモンが咄嗟に避け、行き場を失う。奴の両手がダークタワーに直撃したその瞬間、激しく電流が走った。そしてヤマトさんのデジヴァイスも光を放ち、怯んだベジーモンたちが拘束を解く。ヤマトさんはぐっとデジヴァイスを握った。
「ガブモン進化ー! ガルルモン!」
懐かしいその進化に、私たちは思わず目を見張った。
「な、何!?」
レッドベジーモンは焦ったようにそう叫んだ。
「ガブモンが……!」
「進化出来た!」
パタモンとヤマトさんが驚いた様子でそう呟く。ガルルモンが唸り声をあげると、ベジーモンたちは私たちの拘束を解いた。
「フォックスファイヤー!」
ガルルモンの必殺技に、ベジーモンたちは散っていく。その間に大輔くんは自分のデジヴァイスをじっと見つめると、しっかり握り締めた。
「デジメンタルアーップ!」
「ブイモン、アーマー進化! 燃え上がる勇気! フレイドラモン!」
レッドベジーモンは再び唐辛子を吐き出したが、フレイドラモンは軽々とそれを制した。そのまま左ストレートをかましていく。
「ブイモン! 敵の鞭に耐えて耐えて、やっと進化出来たんだ! 今度はお前の番だ! 思いっきり戦って、ケリを付けるんだ!」
大輔くんは嬉しそうにフレイドラモンに声援を送った。
「頑張れ、フレイドラモン!」
「おう!」
「何だと!?」
掴みかかってきたレッドベジーモンの両手を拘束し、フレイドラモンはレッドベジーモンを何度も地面に叩きつけた。俗に言うお返しである。
「まだまだぁ!」
「ナックルファイヤー!」
意外と根性があるようで立ち上がったが、そこですかさずフレイドラモンが必殺技を放った。
「うわあ、あちゃちゃちゃちゃ! あちっ、あちゃちゃちゃちゃあ……!」
フレイドラモンの炎で燃え上がったレッドベジーモンはばたりと地面に倒れた。
「負けた!」
「やったぜ!」
そう宣言したレッドベジーモンに、大輔くんはガッツポーズをした。