踏んだり蹴ったり


「そう言えば大輔くん。今日君のお姉さんに会ったよ」

 その道中、タケルくんが大輔くんにそう話し掛けた。


「ふーん。だから?」

 しかし大輔くんはどうでも良さそうにそう答える。私は隣の大輔くんをちらりと横目で見た。


「だからって……」

「姉貴、何か俺の悪口言ってたろ」

「別に?」

 タケルくんは思わずこちらを振り返った。


「いや、何か言ってたさ。会う人ごとに俺の悪口言わなきゃ、気が済まないらしいから。俺のこと嫌いなんだよ。ま、俺もあいつのこと嫌いだから、おあいこだけどな」

「大輔くん、それは言い過ぎじゃ……」

「おい! 何悪ぶってんだ!」

 私が止めようとしたその時、ヤマトさんが大輔くんに詰め寄った。


「何!?」

「お前がもし俺の弟だったら許せないね……! ぶん殴ってやる……!」

「面白え! 殴ってみろよ、殴って!」

 ――まずい、このままだと喧嘩に……! 私は慌てて2人の間に入り込んだ。


「ま、まあまあ、ヤマトさん。大輔くんもつい、売り言葉に買い言葉になっちゃったんですよ」

「湊海……」

 ヤマトさんは私を見つめると、静かに拳を下げた。よし、このまま収めれば……。私は大輔くんの方へ向き直り、手を握った。


「ちょっと言い過ぎちゃっただけだよね、大輔くん」

「……うるさいなぁ」

 しかし、大輔くんは私の手を振り払い、鋭い視線を向けた。


「湊海ちゃんには関係ないだろ!」

「ご、ごめ……」

「おい!」

 ヤマトさんは私を押し退け、大輔くんの元へズカズカと向かっていく。


「お前、いい加減に……!」

「やめて!」

 その様子に、タケルくんが慌ててヤマトさんの体を押さえ込んだ。 


「殴らないよね! お兄ちゃん、そんなことしないよね!?」

 タケルくんの言葉に、ヤマトさんはすっと構えをやめた。


「しないよ……しかし、口の聞き方には気をつけるんだな! 湊海、行くぞ!」

「あ、はい……」

 ヤマトさんは大輔くんをひと睨みすると、私の腕を掴み、タケルくんと共に前へ進んだ。だ、大丈夫かな、大輔くん――。


「いちいちうるせえ野郎だなぁ……俺があの馬鹿女のことをどう呼ぼうと、俺の勝手じゃねえか!」

「やめて、大輔くん!」

 すると後ろで悪態をつく大輔くんに、ヒカリちゃんが駆け寄っていく。


「自分のお姉さんのことを悪く言う人は、嫌いよ!」

「嫌い……!?」

 ヒカリちゃんはピシャリと大輔くん言い放つと、そのままスタスタと私たちの方へ来た。


「ひ、ヒカリちゃん……」

「いいのよ。あれくらい言わないと分からないから。大輔くんは」

 ヒカリちゃんは腕を組み、渋い表情でそう呟いた。思わず後ろを振り向くと、大輔くんは可哀想になるくらい項垂れていた。


「今日の大輔さんは、とことん不運ですね……」

「自業自得じゃないの?」

「悪口言うのは良くないもんね。インガオウホウってやつ?」

 ラブラモンが苦笑いでそう言うと、テイルモンとパタモンが冷めた目でそう返した。――デジモンたち、結構手厳しい。



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