ダークタワー

 パソコン室に着くと、京ちゃんが真剣な表情でパソコンに向き合っていた。私たちも無言でそれを見守る。すると、パソコンから電子音が聞こえた。どうやらゲートが開いたらしい。


「選ばれし子どもたち、出動!」

 その京ちゃんの掛け声に、私たちはデジヴァイスを構えた。そのままゲートの中に吸い込まれていく。


 私たちがたどり着いたのは川辺だった。その目の前には、ぐったりとした様子のガブモンが倒れている。


「ガブモン!」

「ヤマト……」

 ヤマトさんはガブモンに駆け寄った。ガブモンもヨロヨロと体を起き上がらせる。


「しっかりしろ、ガブモン……!」

「あ、ああ! 会いたかったよ!」

「どうしたんだ、何があったんだ?」

「うん、実はね……」

 ガブモンが話し始めようとしたその時、後ろからテレビが付くような音がしたので、思わず振り返る。テレビの画面には京ちゃんが映っていた。


『みんな! 私、泉先輩ん家にデジヴァイスを返して貰いに行って来る!』

『その間私が連絡役を務めます、よろしく!』

「了解!」

 大輔くんが親指を立てると、テレビの電源は切れた。


「このテレビが、向こうの世界にSOS信号を送るのね。アグモンが、太一に連絡したのもやっぱりテレビだって言ってた」

「そうなの……」

 そのテイルモンの発言に、ヒカリちゃんはそう返した。テレビからデジヴァイスにSOSを送られるんだね。そういう状況になって欲しくはないが、いざという時は便利だ。


「みんな、目的地が分かったよ!」

 パタモンがそう私たちに呼びかけると、ヤマトさんは腰を上げた。

 その後私たちはガブモンに続いて、森の中を進んでいく。するとガブモンはある地点で、ぴたりと足を止めた。


「あのサンタゲリアって町だ。平和な町だったんだけど、デジモンカイザーがやって来て町のデジモンたちは牢獄の中……」

 ガブモンは町を見渡しながら、そう私たちに説明をした。


「あ! あの塔……ゴツモンたちのところにもあった」

「ダークタワーっていうんだ。デジモンカイザーが立てたんだ」

「ダークタワーか……」

 私は町のてっぺんにあるダークタワーを見つめた。何だか嫌な気配がする塔だ。相変わらず趣味悪いなぁ、カイザーさんは。


「よーし、行こう!」

「待て」

 誰よりも先に駆け出そうとする大輔くんに、ヤマトさんは声を掛けた。


「もう一度念を押しとくぞ。俺たちの目的は囚われたデジモンたちの解放だ」

「分かってるよ! なに、アーマー進化すればあっという間さ!」

「ダメだよ!」

 そんな余裕しゃくしゃくな大輔くんをタケルくんは強い口調で制止した。大輔くんは不思議そうにタケルくんを振り返る。


「ん?」

「そんなことしたら、人質のデジモンたちを盾にするかも!」

「そうね。人質を救出しに来たのに、それじゃ本末転倒だわ」

「今回ばかりは、勢いだけじゃダメかも……」

 残念ながらタケルくんとヒカリちゃんの言う事の方が圧倒的に正しい。私は眉を下げ、2人に同意した。


「ええ……!?」

 大輔くんは不満そうな様子で声をあげた。


「見張りはべジーモンだよね。うんち攻撃を仕掛けてくる」

「レッドベジーモンって、どんな奴だったっけ?」

「えっとね……」

 パタモンやヤマトさんたちはどんどん話を進めていった。 以前の冒険に参加していない大輔くんと伊織くんは、ぽつんと離れた場所で待機している。
私が2人の元へ向かうと、伊織くんがこちらに駆け寄ってきた。


「湊海さん。ベジーモンのことなんですけど……」

「ああ、ベジーモンはね、前の冒険の時も敵でいたんだ。タケルくんや丈さんが捕まっちゃって……って、大輔くんはどうしたの?」

 その私の質問に、伊織くんは苦笑いで頬をかいた。


「どうやら話についていけないのが嫌らしくて……」

「なるほどね……」

 私も思わず苦笑いを返す。確かに、分からない話を勝手に進められても、普通の人は戸惑うだけだろう。もっと大輔くんの気持ちを考えなきゃいけなかったな――。


「大輔くん、こっち来なよ!」

「いいよーだ。俺は別に……」

 私は大きく手を振ったが、大輔くんはそっぽを向くだけだった。ブイモンが気まずそうに大輔くんと私たちを見比べる。


「……拗ねてる」

「拗ねてますね」

 私たちは顔を見合わせた。あらぁ、困りましたなぁ。


「どうしようか、ラブラモン」

「仕方ないですよ。今はそっとしてときましょう」

「ふむ……」

 私は顎に手を当て、石を蹴る大輔くんの背中を見つめた。拗ね方も典型的だな。


「よし、じゃあ牢獄に潜入だ!」

 その間にヤマトさんたちの方の話がまとまったようで、私たちは後に続いた。


「ちょ、ちょい待ち!」

 すると大輔くんに呼び止められ、思わず後ろを振り返る。


「ヒカリちゃんも連れて行くのかぁ!? 俺は反対だ! うんちな敵が相手なんだろ!?」

「大丈夫よ」

 ヒカリちゃんが気軽な様子でそう答えると、大輔くんは私に詰め寄った。


「湊海ちゃんだって、うんち嫌でしょ!?」

「ま、まあ良くはないけど……別に平気だよ」

 うんち鷲掴みした方もいたし、冒険の上で支障はない。


「うんち攻撃なら、前の冒険で見たことあるもんね!」

「うん!」

 ヒカリちゃんは笑顔でタケルくんに頷いた。それを見た大輔くんは更にヒートアップする。


「てめえ、タケル! お前にはテレパシーってのがないのかよ!?」

 その大輔くんの言葉に、私たちは首を傾げた。

 
「テレパシー?」

「デリカシーの間違えじゃ……?」

 タケルくんたちは思わず大声で笑った。大輔くんは顔を赤くして鼻を鳴らす。


「大丈夫だよ、大輔くん。何となく意味は伝わったから」

「全然大丈夫じゃなーい……」

 大輔くんはがっくりと肩を落とした。その私たちのやり取りに、タケルくんたちは更に笑う。今日はとことん不運だね、大輔くん――。


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