呟いた言葉


「湊海お姉ちゃん!」

「ん、タケルくんどうしたの?」

 ランドセルを背負っていると、タケルくんに声を掛けられた。タケルくんはニコニコと私に笑いかける。


「良かったら、今から一緒にお兄ちゃんの所行かない? お兄ちゃんにゴツモンの隠し場所ないか聞こうと思ってて!」

「お、いいね! 行く行く!」

 せっかくのタケルくんのお誘い、しかもヤマトさんに会えると来たら乗らない手はない。私は大きく頷いた。


「ええ!?」

 すると話を聞いていたらしい大輔くんが大声て叫び、私にまとわりついた。


「湊海ちゃん、タケルとどっか行っちゃうのー? 俺と一緒に帰るって言ってたじゃーん!」

「ああ、ごめんね。大輔くん」

 私はぽんぽんと大輔くんの頭を撫でた。


「今日は用事出来ちゃったから、ヒカリちゃんと一緒に帰りなよ。ヒカリちゃん、お願いね」

「えー? 仕方ないなぁ……。じゃあ帰ろうか、大輔くん」

「ま、マジ……!?」

 ヒカリちゃんが苦笑いで大輔くんに声を掛けると、大輔くんは目を輝かせた。


「バイバイ、湊海ちゃん!」

「はいはい、またね」

 大輔くんはパッと私から離れ、一目散にヒカリちゃんの元へ駆け出していく。全く、世話が焼けるなぁ。


「……何だよそれ」

 すると大輔くんとヒカリちゃんの背中を見送りながら、タケルくんがぼそりとそう呟いた。


「あはは、大輔くんはヒカリちゃん大好きだから!」

「……だったら、湊海お姉ちゃんを疎かにしていい訳?」

「うーん、私は別に気にしてないけど。大輔くんは素直なだけだよ。そこが可愛いのだ!」

 今どきあんなに素直な子はいないぞ。そう考えると、大輔くんはとても貴重な存在である。まさに存在が奇跡。


「……ふーん」

 タケルくんはそう返事をすると、ぐっと帽子を深く被った。


「……そういうの、許せないんだけどな」

 小さく呟かれたその言葉は、私の耳ではよく聞き取れなかった。


「タケルくん?」

「何でもないよ! さ、行こ!」

 私はそう聞き返したが、タケルくんが打って変わった笑顔で私の背中を押したので、結局何も聞くことは出来なかった。――どうしたのだろう。タケルくん。



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