「誠に申し訳ない……!」
ギンリュウモンは起き上がると、土下座をする勢いで私たちに頭を下げた。
「だ、大丈夫だって! ギンリュウモンは操られていただけなんだから!」
「そ、そうそう。気にしなくてもいいんだよ」
私とロップモンは慌ててギンリュウモンを宥めた。随分律儀なデジモンだなぁ……。
「腕は痛みませんか? 一応加減はしたのですが……」
「問題ない。君にはとても感謝している。本当にありがとう」
「いえ、そんな……」
ラブラモンは照れ笑いで、ギンリュウモンに応対した。可愛い。
その後ギンリュウモンは、何度も頭を下げながら、自分の住処へ帰っていった。最初から最後まで礼儀正しいデジモンだった。また会いたいな。
「ぐっ……」
すると後ろから呻き声が聞こえたので、思わず振り返る。そこではカイザーがヨロヨロと立ち上がっていた。
「だ、大丈夫……?」
私はカイザーに手を差し出した。カイザーのズボンはざっくりと破れており、膝から出血していた。どうやらムースモンの必殺技に巻き込まれて、怪我をしたらしい。とても痛そう。
「僕に触れるな!」
しかしカイザーはお気に召さなかったようで、私の手を叩き払った。流石カイザー様である。
「ごめん。潔癖症だった?」
「違う! 馬鹿か!」
「失礼だなぁ……。ま、いいや。はいどうぞ」
私はカイザーにハンカチを持たせた。カイザーは怪訝そうな目で私を睨みつける。
「とりあえずハンカチでも当てときなよ」
「……何を考えているんだ?」
「別に。痛そうだったから」
私がそう言うと、カイザーは無言で踵を返した。
「……礼は言わない」
カイザーはそう呟き、森の奥へ消えていった。いやあ、お礼なんて言わなくて良いんだけど――。案外義理堅い奴なのか? カイザーの性格はよく分かんないな!
「ごめん、湊海ちゃん。私も行くね」
そんな事を考えていると、不意にロップモンがすっと立ち上がった。
「え、どこに?」
「デジタルワールドの何処か。また絶対会いに来るから!」
ロップモンはそう挨拶をすると、一目散に駆け出した。
「待ってください! まだ聞きたい事がたくさん……!」
思わずラブラモンがそう声を掛けたが、ロップモンの姿はあっという間に見えなくなってしまった。
「行っちゃった……」
「ハクさんの頃から謎が多い方でしたが……、最近一層そんな感じですね……」
「うん……」
私はラブラモンに頷いた。ロップモンは一体、何をしているのだろう。危ない事はして欲しくないんだけどな……。
「湊海ちゃーん!」
「え!?」
突然聞こえたその声に、私は辺りを見渡した。そうこうしている内に、背中に衝撃が走る。
「どーん!」
「大輔くん!」
後ろを向くと、大輔くんが私の背中に抱き着いていた。
「えへへー、湊海ちゃん捕獲ー!」
「捕獲されちゃったかぁ……」
私は照れ隠しに頬をかいた。大輔くんは可愛いなぁ。是非弟としてスカウトしたい。
少しすると、京ちゃんたちもこちらへやって来た。どうやら大輔くんはいち早く私たちを見つけ、全力で走って来たらしい。ブイモンが置いていかれたと、ぷりぷり怒っていた。こちらも可愛い。
「湊海ちゃん、こっちに来てたのね! 連絡してくれれば良かったのに!」
「わ、忘れてた……! ごめんね!」
私はそう謝ると、京ちゃんは苦笑いをした。確かに合流するには連絡が必要だよね……!
「そう言えばみんな、どうしてここに?」
「デジメンタルの反応があったから、みんなで探してたんだよ。でも、途中で消えちゃって……」
「それでも何とか見つけようって大輔くんが言って、手分けして探してたの」
私の質問に、タケルくんとヒカリちゃんはそう答えた。
「まあ結局見つからなかったけどね!」
「仕方ないだろー? そういう時もあるって!」
京ちゃんはあっけらかんとした口調でそう言った。大輔くんと同じく朗らかに笑う。この2人、どこか似てる所あるよね。――ん? デジメンタル……?
「あ! もしかして……!」
私はDターミナルを開き、大輔くんたちに見せた。その途端みんなの目が大きく見開く。
「これは……!?」
「デジメンタル……湊海さんの!?」
伊織くんが驚いた様子で声をあげた。Dターミナルには、先程のデジメンタルが表示されている。
「うん。あそこの切り株の上に、慈悲のデジメンタルがあったんだ」
「じゃあ、ラブラモンも……!」
「無事、アーマー進化出来るようになりました」
「やったね!」
ラブラモンが嬉しそうに笑うと、テイルモンたちも歓声をあげた。
「デジヴァイスも、みんなと同じのになったよ。ほら!」
私はポケットから、デジヴァイスを取り出した。みんなはまじまじと私のデジヴァイスを見つめた。
「オレンジのデジヴァイスだ! 湊海ちゃんにぴったり!」
「そうかな?」
大輔くんはキラキラと目を輝かせて、デジヴァイスを見つめた。
「うん、とっても可愛いよ」
「で、デジヴァイスがだよね……?」
デジヴァイスではなく私の顔を見つめてそう言うタケルくんに、思わずツッコミを入れた。もしかしてタケルくん、私で遊んでる……? 純粋なタケルくんはもういないの!?
「湊海お姉ちゃん、本当に良かったね……!」
ヒカリちゃんはそっと私の手を握り、笑いかけた。――ああ、ヒカリちゃんには気づかれていたな。私は小さく苦笑いをした。この子には、隠し事なんて出来ない。……今度からは、ちゃんと話そう。
「……うん。良かった」
私はヒカリちゃんの手を握り返し、頬を緩めた。ごめんね、ヒカリちゃん。何も聞かないでくれて、ありがとう。
「よーし、今日はお祝いよ!」
すると突然、京ちゃんが手を叩いた。
「湊海ちゃん、うちの店から好きなお菓子いっぱい持ってって!」
「い、いや、悪いよ!」
「今日お母さんいるから、うちでパーティーしようよ。夕飯も食べてったら?」
「マジかよ! タケルん家行った事ないから楽しみ!」
私が首を振る横で、タケルくんと大輔くんが話を進めていく。
こ、この……普段は犬猿の仲な感じのくせに、こういう時は連携して……! ――いや、大輔くんは素だな。何かごめん。
「明日休みだから泊まってもいいよー」
タケルくんが気軽な様子でそう言った。彼はもちろん策士である。
「じゃあヒカリちゃんと湊海ちゃんは、家に泊まったら? 2人分くらいなら布団もあるし!」
「僕も大丈夫でしょうか……?」
「同じマンションなんだからオッケーでしょ。伊織のお母さんにはあたしからもお願いするから!」
「では、その方向で」
伊織くんはぺこりと京ちゃんに頭を下げた。あれ? もしかして伊織くん、すごく楽しみにしてる?
「私は湊海お姉ちゃんと一緒なら、オッケー出ると思うけどなー?」
「ひ、ヒカリちゃん……」
ヒカリちゃんがニコニコと私の事を見つめた。もちろん彼女も策士である。そして私はヒカリちゃんに滅法弱い。――全く、仕方ないな……!
「よし、乗った! 今日はパーリーナイトだ!」
『いえーい!』
私が拳を突き上げると、みんなもそれに続いた。
「とりあえず帰ったら、適当に見繕っとくわね。欲しいのあったら一緒に取りに行きましょ!」
「俺とヒカリちゃんと湊海ちゃんは、一旦家に帰らないとな!」
「そうね、泊まりの準備もしないと。ね、湊海お姉ちゃん」
「湊海お姉ちゃんコーラ好きだったよね? ちゃーんと冷やしてあるよ」
「湊海さん、僕の家におはぎあるんです。持っていきますから、一緒に食べましょう」
みんなの優しさがすーっと心の中に染み込んでいく。――私は、本当に幸せ者だな。溢れそうになった涙をぐっと拭う。今日は何だか泣いてばかりだ。……まあたまには、そんな日があっても良いかもしれない。
「ねえ、みんな!」
私がそう呼ぶと、大輔くんたちはこちらを向いた。
「……ありがとう!」
『どういたしまして!』
みんなはにこりと私に笑いかけた。大輔くん、京ちゃん、伊織くん、タケルくん、ヒカリちゃん――。とても大切な、私の仲間だ。……嫌って言っても、絶対に離さないからね!