役に立てない


 私たちはここの所毎日、デジタルワールドに来ていた。黒いリングを付けているデジモンに出会っても、みんなはアーマー進化が出来るので何とか対処が出来る。相変わらず私は何も出来ないままだが……それは仕方ない。


「そっち行ったぞ!」

 その大輔くんの声に顔をあげると、グリズモンが私の前に迫っていた。思わず息を呑み、後ずさりをする。まずい、間に合わないか――!?


「湊海様!」

「湊海お姉ちゃん、危ない!」

「わっ!」

 その瞬間、ぐいっとタケルくんに腕を引っ張られ、私はタケルくんの胸元に飛び込んだ。


「シューティングスター!」

「ロゼッタストーン!」

 その間にペガスモンとネフェルティモンが必殺技を放ち、グリズモンの腕に付いていた黒いリングを破壊した。
 地面に倒れ込んだグリズモンに、京ちゃんとヒカリちゃんが駆け寄っていく。


「あれ? 俺は……」

 グリズモンはゆっくりと体を起こし、首を振った。


「カイザーに黒いリングで操られていたのよ」

「そうだったのか……。すまないな……」

「大丈夫よ。気にしないで」

 京ちゃんの説明に、グリズモンが頭を下げる。ヒカリちゃんはそんなグリズモンの体を撫で、優しく声を掛けた。
私はその様子を見つめていたが、未だタケルくんに抱きついたままだという事に気がつき、慌てて離れた。


「さ、さっきはありがとね。タケルくん」

「どういたしまして」

 私がそうお礼を言うと、タケルくんはにこりと笑った。こっちは恥ずかしくて顔が火照っていると言うのにこの余裕――。流石ヤマトさんの弟である。やっぱりモテるんだろうな。


「でも、ボーッとしてちゃダメだよ!」

「面目ない……」

 タケルくんはビシッと指を立て、私にそう告げた。何とか無事だったものの、危なかった事には変わりない。ただでさえ役に立てていないのに、余計な手間まで掛けさせてしまうとは……。もう少し、自分の行動を見つめ直さないと。


「湊海さん、大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫だよ。ありがとう」

 伊織くんが心配そうな様子でこちらに走り寄って来たので、私は笑みを返した。
大丈夫――私は、大丈夫だから。そう言い聞かせるように、自分の胸元をギュッと握った。








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