燃え上がる勇気

私たちは何とか洞窟から脱出し、息を整えた。


「あ、あれぇ? どうしたんだ?」

「追ってこないね……」

 後ろを振り返ると、モノクロモンはまだ来ていなかった。


「大輔、湊海! こっちだ!」

「今行きまーす!」

 崖の下から太一さんが声をあげる。それに手を振り返した、その時だった。


「湊海様!」

「うわっ!」

 私はラブラモンに抱えられ、崖の下に転げ落ちた。そのすぐ上をモノクロモンの炎が通り過ぎていく。
同じく大輔くんも、崖から落ちていた。


「湊海様、お怪我は!?」

「大丈夫、ありがとう!」

 私は苦笑いをし、砂を払った。ラブラモンが気づかなかったら、私は今頃燃えカスになっていた。久々のデジタルワールドで鈍っていたのだろうか。危ない危ない。


「大丈夫か、大輔!?」

「うん、ありがとう……!」

 一方大輔くんは、地面に寝転がっていた。頭のゴーグルは先程の衝撃で壊れてしまっている。


「大丈夫? 大輔くん」

「な、何とか……」

「大輔が勇気をくれれば……デジメンタルアップって言ってくれれば……!」

「デジメンタルアップ……?」

 私は思わずブイモンを見つめた。デジメンタルアップ――これを言うと、何かが起こるのだろうか。
 

「大輔、湊海! 大丈夫か!?」

「は、はい……!」

「大丈夫です!」

 すると、心配した太一さんがこちらへ駆け寄ってきた。私たちは頷いて返事をする。


「デジメンタルアップって言ってくれ! そしたら進化出来るんだ!」

「なんだって!?」

「進化が……!?」

 ブイモンの発言に太一さんと私は目を見開いた。でも、ラブラモンたちはデジモンカイザーとやらのデジヴァイスのせいで、出来ないのに――。デジヴァイス……そこで私はハッと気づいた。そうか、大輔くんはデジヴァイスが違うから……!


「太一ぃ!」

「ヒカリちゃん、足が!」

 アグモンとタケルくんが心配そうにヒカリちゃんを振り返った。どうやらヒカリちゃんが、足を捻ってしまったようだ。


「ヒカリちゃん……!」

 するとその時、崖の上からモノクロモンが飛び降りた。モノクロモンはそのまま真っ直ぐ、ヒカリちゃんの方へ向かっていく。


「危ない!」

「早く!」

「大輔!」

 ブイモンと太一さんが大輔くんを促した。


「ヒカリちゃん……!」

 大輔くんはゴーグルを投げ捨て、デジメンタルをしっかり握り立ち上がった。


「やってみる!」

 私たちはじっと大輔くんを見守った。――大輔くん。もう私たちには、君しかいない……!


「デジメンタルアーップ!」

 大輔くんはデジメンタルを掲げ、そう叫ぶ。その瞬間、デジメンタルがオレンジの光を放った。


「ブイモン、アーマー進化! 燃え上がる勇気、フレイドラモン!」

 フレイドラモン――ブイモンが大きくなり、炎の鎧を纏ったような見た目だ。そしてフレイドラモンは、モノクロモンに体当たりをかました。


「進化、したのか……?」

 私たちは呆然とフレイドラモンを見つめた。


「すっげえ……!」

 大輔くんが驚いたようにそう呟く。
 フレイドラモンは襲い掛かってきたモノクロモンを押さえ込み、背負い投げをする。辺りは砂埃に包まれた。それが晴れるとモノクロモンはゆっくりと体を起こし、炎を放っていった。フレイドラモンはそれをものともせず、前へ進んでいく。しかしフレイドラモンはモノクロモンに頭突きされ、空高く飛ばされてしまった。


「ああっ!」

 私たちは思わず声をあげたが、フレイドラモンは空中で体制を立て直し、構え始めた。


「ファイアーロケット!」

 炎を纏ったフレイドラモンが、モノクロモンに向かっていく。


「あの、黒い輪を狙うのよ!」

 テイルモンの誘導通り、フレイドラモンはモノクロモンの黒いリングに命中させた。その瞬間黒いリングは砕け、モノクロモンは正気に戻る。
 フレイドラモンが着地し、オレンジ色の光を放つと、大輔くんのデジヴァイスにデジメンタルが吸い込まれた。そしてその光が大輔くんのポケットへ放たれる。大輔くんがポケットに手を入れると、そこにはDターミナルが入っていた。画面にはデジメンタルらしき物体が浮かび上がっている。


「もう大丈夫ね」

 ヒカリちゃんがモノクロモンの頭を撫でている横で、フレイドラモンはブイモンに退化していた。


 モノクロモンは私たちに何度も頭を下げ、自分の縄張りへ帰っていった。


「またねー!」

 私とヒカリちゃんは手を大きく振り、モノクロモンを見送った。


「本当は、あんなに大人しいデジモンを、凶暴な手下にするなんて……」

「そうだね……」

 タケルくんの呟きに、私は小さく頷いた。デジモンカイザー……。その人は一体何を考えてこんな事を――。



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