勇気のデジメンタル

 私たちはテイルモンたちに話を聞きながら、先へ進んだ。テイルモンはユニモンから逃げる際に、ホーリーリングを失ってしまったらしい。


「でも、ユニモンってそんなに凶暴なデジモンじゃないよね?」

「ああ……」

 テイルモンは私の質問に頷いた。


「ユニモンは操られていたんだ……デジモンカイザーに、黒いリングを嵌められて」

「デジモンカイザー?」

 すると丁度洞窟の前にたどり着き、話が一旦打ち切られる。中に入っていくと、真ん中の山になっている所にたまごの形をした何かがあった。それが気になったものの、私は引き続きテイルモンの話を聞いた。


「私は何とか逃れる事が出来たが……あのデジモンカイザーと名乗っている人間は、次々とデジモンを洗脳しているんだ」

「人間だって!? 僕らの他にも、こっちに来ている人間がいるの?」

 タケルくんが驚いてテイルモンに尋ねた。


「ああ。ヒカリの持つものと違うデジヴァイスを持っていたわ」

「それって……」

 私たちは思わず大輔くんの方を見た。大輔くんは「えっ?」と声をあげると、ポケットからデジヴァイスを取り出した。


「これ? こんなの?」

「そう! それによく似たものだ!」

「でも! これはついさっきパソコンから出てきたんだぜぇ!?」

 大輔くんは慌てた様子で私たちを見た。


「大丈夫、誰も大輔くんを疑ってないよ」

「そうそう」

 私に続いて、タケルくんがいたずら気に笑った。大輔くんは相変わらず面白いなぁ。


「あのデジヴァイスのせいで、私たちは進化出来なくなってるらしい……!」

 テイルモンは震えながら、憎々しげにそう言い放った。


「そうだったのか……!」

「進化さえ出来れば、あんな奴……!」

 アグモンが悔しそうにそう呟いた。ラブラモンも唇を噛み締め、顔を伏せていた。


「私は、ホーリーリングを失ったせいで、パワーが半減してしまった」

「僕たちは、ピヨモンやテントモンたちと離れ離れになっちゃった」

「申し訳ありません、湊海様」

「謝ることないよ、悪いのはそのデジモンカイザーってやつなんだから」

 私がラブラモンたちの頭をぽんと叩くと、みんなは苦笑いで頷いた。


「人間がデジモン狩りなんて……、デジモンの王だなんて、馬鹿みたい!」

 ヒカリちゃんが珍しく感情を露にしてそう叫んだ。
ふとタケルくんは謎のたまごの方へ視線を移した。


「あ、これ……確か勇気の紋章?」

「本当だ、よく見たら太一さんの紋章ですね!」

 私とタケルくんはそのたまごの元へ歩み寄った。


「ああ、それすごく重いんだ!」

「ふうん……」

 タケルくんは地面にしゃがみ、そのたまごを持ち上げようと試みた――が。


「本当だ……!」

「おっけー、湊海お姉ちゃんに任せなさい!」

「いや、絶対無理だよ……」

 そんなタケルくんの嘆きを聞きつつ、私はたまごに手を掛けた。そのまま全力で持ち上げる。


「うーん……!」

 いつかの空さんの如く、たまごは一ミリたりとも動かなかった。


「だ、ダメだこりゃ……」

「だから言ったのに……」

「こんなに小さいのに?」

 そんな私たちの様子に、ヒカリちゃんも参戦する。しかし、結果は同じだった。


「何これ! びくともしないじゃないの!」

「そういう事なら俺に任せて!」

 すると大輔くんが腕まくりをしながらたまごの前にやって来た。ヒカリちゃんイイトコを見せたいのだろうか。大輔くんらしい。
私たちが見守る中、大輔くんは顔を強ばらせながらたまごに触れた。そのまま力を入れ、一気に持ち上げる。


「ああ! いてててっ……!」

 大輔くんは見事にたまごを持ち上げた。私たちは呆然と大輔くんを見つめた。


「何だよ、全然軽いじゃんよ……!」

「大輔……」

 太一さんが呟いたその瞬間、たまごがあった穴からオレンジ色の光が漏れた。そして現れたのは――。


「やっほーい!」

 青色の恐竜のようなデジモンはそう嬉しそうに声をあげると、大輔くんの元に飛び降り、周りをぐるぐると回った。


「やったやったぁ! デジメンタル動いたー!」

 私とラブラモンは思わず顔を見合わせた。このデジモンは、まさか……!?


「俺、ブイモン! お前、何て言うんだ?」

「だ、大輔……」

 ブイモンは大輔くんに向かって手を伸ばした。大輔くんは尻餅をつきながら、そう自分の名前を伝える。


「よろしく大輔! 俺、お前が来るのをずっと待ってたんだ!」

「ええ? 俺を待ってた?」

「ああ! この勇気のデジメンタルを動かせる子どもを、待ってたんだよ!」

 勇気の、デジメンタル――? 私は思わず大輔くんの右手にあるたまご……いや、デジメンタルを見つめた。大輔くんは――デジメンタルに選ばれた? つまり大輔くんは……!


「う、うわああ!」

 そう考えていた時、いきなり地面が大きく揺れた。バランスが取れなくなり転びかけたが、太一さんに腕を掴まれ、事なきを得る。私はほっと息をついた。


「大丈夫か?」

「はい、ありがとうございます」

「何だぁ、地震か!?」

「違う! あれ見て!」

 タケルくんの指をさす方向を見ると、天井からモノクロモンが襲い掛かってきていた。


「うわああ! 怪獣だあああ!」

「あれもデジモンなの!?」

 大輔くんが思わず悲鳴をあげる。ヒカリちゃんが私たちの方を向いて、そう問いかけた。


「モノクロモンだ!」

「本当は大人しいデジモンのはず、なんだけど!」

 タケルくんと私はそう答えた。3年前の冒険を思い出す。あの時は縄張り争いで暴れていたが、今は……!?

 モノクロモンはそのまま、私たちの前に降り立った。


「エアーショット!」

「ベビーフレイム!」

 パタモンとアグモンが必殺技を放ったが、モノクロモンは微動だにしない。モノクロモンは口を開くと、炎を繰り出した。


「駄目だ、逃げろっ!」

「大輔!」

「早く!」

 私は大輔くんの背中を押し、慌てて通路へ駆け出した。


「大輔、何してんだよー! 早く勇気を出してくれ!」

「え、ええ? な、何だって!?」

 ブイモンは逃げている最中、大輔くんにそう叫んだ。勇気を出して――? それって……。




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