私たちが降り立ったのは、どこかの森だった。
「ここがデジタルワールド……」
大輔くんが辺りを見渡しながら小さく呟いた。
「ああ! 俺、服が変わってる……!」
上半身は炎をモチーフにした上着に、首元にファーが付いている。下半身はハーフパンツだが、首元のファーと手には手袋もしているので、寒い所でも大丈夫だろう。いいね!
「似合ってるよ、大輔くん!」
「へへっ、そうかー? やりい!」
大輔くんは嬉しそうにガッツポーズをする。
そして私たちはデジヴァイスを見ながら歩き始めた。
「大輔くんと湊海お姉ちゃんって、仲良いの?」
不意にタケルくんがそう尋ねた。
「太一さんのサッカーの応援行ってたら、自然にね。大体太一さんかヒカリちゃんにくっ付いてたし……今もだけど」
「なんと湊海ちゃんは週に1回俺の家に来てるんだ! 仲が悪いはずがない!」
その大輔くんの発言に、タケルくんは目をぱちくりさせた。
「……え、何で?」
「大輔くんに英語教えて貰ってるんだって」
ヒカリちゃんはタケルくんにそう説明をした。――その通り。なんと大輔くんは帰国子女で、英語がペラペラなのだ。それを聞いた私は大輔くんに英語を教えて貰うようお願いし、大輔くんは快く引き受けてくれた。おかげで今は人並みには理解が出来ている。人並みって言っても、基準が大輔くんしかいないから分からないけど。
「僕は大輔くんが英語を話せた事に驚いてるよ……」
「失礼な奴だなぁ。時代はぐろーばるなんだから、今どき話せないとやってけないぞ」
そんなタケルくんに、大輔くんは顔を顰めた。
「へえ、大輔くん。グローバルって知ってたんだね」
「ね、湊海ちゃん。もしかして俺のこと馬鹿にしてる?」
私がそう頷きながら言うと、大輔くんは頬を膨らませ「ねえねえ」とまとわりついた。
「大丈夫! 馬鹿な子ほど可愛いって言うじゃない!」
「やっぱり馬鹿だとは思ってるんだね! 湊海ちゃん!」
「えらい態度の違いだな……」
タケルくんが呆れた様子で大輔くんと私を見比べた。それを見ていたヒカリちゃんがクスクスと笑う。
私たち周りを見渡しながら、どんどん先へ進んでいった。ヒカリちゃんがデジヴァイスで現在位置を確認する。
「ここがデジタルワールドかぁ……」
大輔くんは物珍しいようで、私たち以上にキョロキョロとしながら進んでいっていた。
そろそろ合流してもいい頃なんだけど――私はヒカリちゃんのデジヴァイスを覗き込んだ。
「もうすぐかな?」
「かもね」
「うわあああ!」
その大輔くんの叫び声に、思わず後ろを振り返る。大輔くんは自動販売機の中に入っていたヌメモンの大群に周りを囲まれていた。
「うわあ、ああ、ああ……」
「あははは!」
それを見たタケルくんが大声で笑った。最初は笑っていなかったヒカリちゃんも、思わずくすりと笑う。
「笑うなよ!」
「はは、大丈夫?」
私は大輔くんに駆け寄り、手を差し伸べた。
「さ、さんきゅー……」
大輔くんは照れくさそうに私の手を取った。そして私たちは再び、先へ進んでいく。
「あれが、デジモンってやつか……」
「他にもいっぱいいるわ。もっと可愛いのも」
「もっとカッコいいのも!」
「もーっと怖いのもね!」
大輔くんの呟きに、私たちはそう返した。
そのうち、デジヴァイスの反応がだんだんと大きくなる。私たちはデジヴァイスと前を交互に見つめた。
「あ、タケルー!」
すると前の曲がり角から、パタモンがやって来た。
「パタモン! 久しぶり! はははは!」
タケルくんは嬉しそうにパタモンを抱き締めた。その後で大輔くんが変な顔をして驚いている。
「みんな、来てくれて助かったよ!」
続けて太一さんたちもやって来た。私たちの姿を見て、ほっと息をつく。
「太一先輩! 無事だったんですね!」
「えっ? な、なんで大輔が……?」
「湊海様!」
太一さんが目を見開いている横から、ラブラモンが飛び出した。
「ラブラモン!」
私は地面にしゃがみ、しっかりとラブラモンを抱き締めた。
「元気だった?」
「はい! 湊海様もお元気そうで何よりです!」
「ふふ、まあね!」
私はラブラモンの頭を撫でた。もしかしたらラブラモンたちも危ない目に遭っているじゃないかと思っていたが――。良かった、無事で……。
「……あれ? ロップモンは一緒じゃないの?」
「はい、最近はいつもいらっしゃらなくて……たまにひょっこり私たちの元へ来る時もあるんですけど……」
「そうなんだ……」
私は首を傾げた。ロップモンはロップモンで、何か事情があるのだろうか……?