始業式が終わり、クラスで自己紹介をしたり配布を受け取ったりしているうちに、あっという間に掃除の時間になる。今日は午前中で終わりだが、当たり前の如く掃除はあるのだ。まあ別にいいけどね!
「結城、俺ちりとり取ってくるから」
「うん、よろしく」
同じ掃除の担当場所のクラスメイトがそう断りを入れて駆け出した。そんなに急がなくても良いんだよ。
「さてと……」
彼が戻ってくるまでの間、もう少しやっておくか――そう箒を構えた時だった。
「だーれだ?」
「わっ!」
いきなり目を隠され、思わず声をあげる。
「ちょ、ちょっと君!」
「貴女が当てられたら、取ってもいいよ?」
「ええ……!?」
こういう事をやりそうなのは太一さんぐらいなもんだけど……太一さん今中学校だし。じゃあヒカリちゃん? いや、ヒカリちゃんの声はこんなに低くない。――実はもう一つ可能性があるのだが、あの子はこの学校にはいないはず。でも……。
「ひ、ヒント!」
「湊海お姉ちゃんが大好きな人でーす!」
「はいもう分かりました。タケルくん、取ってください」
タケルくんはゆっくり手を離し、私の前でにっこりと笑った。
「久しぶり、湊海お姉ちゃん」
「大きくなったね。タケルくん」
私たちは小さくハイタッチをした。タケルくんに会ったのは、彼の言う通り随分久しぶりな気がする。私より身長は小さかったはずなのに、もうすぐ追い越されそうだ。タケルくんと目線が同じ位置にあるのは新鮮である。そもそも彼がここにいること自体新鮮というか何というか――。
「あのね、私今こう見えてすごく驚いてるんだけど! どういう事!?」
「うん、それは見てて分かる。今日から転入してきたんだ。よろしくね!」
「き、聞いてない……」
「だって言ってないもん。お兄ちゃんやヒカリちゃんたちには言ったけど、黙っといてってお願いしたから」
「ええ……?」
タケルくんは満面の笑みでそう言い放った。私だけ、仲間はずれ――!?
一体どういう意図で内緒にしていたんだろう。タケルくんの考えている事は時々……いつも分からない。
「驚いた?」
「タケルくんが思ってる数倍にはね……」
私は半笑いでそう答えた。
「でも、嬉しいよ。これからタケルくんがずっと近くにいるんだから! こちらこそよろしくね!」
「……うん」
私が手を差し出すと、タケルくんはぎゅっと握った。「これからもよろしくね」の握手だ。
「じゃ、じゃあ、僕行くから! またね!」
「またねー!」
タケルくんは素早く手を離し、そのまま走り去っていった。すると入れ違いになるように、クラスメイトが戻ってくる。
「結城、ちりとり」
「ありがとう!」
私はちりとりを受け取り、お礼を言った。――後でまた、会いにいこう。