悠馬くんと私

 私は決して友達が多い方では無いが、有希ちゃんの他にも、クラスで仲良くなった子はいる。
その子は、私の隣の席だったことがきっかけで、仲良くなった。中学生の出会いなんてそんなもんだ。――でもそんなもんな出会いが、一生の付き合いの友達を引き当てることがある。……なーんてね。


「悠馬くん準備終わった? そろそろ委員会だよ」

 私が彼の肩をぽんと叩くと、黒髪の爽やかな美少年がこちらを振り向いた。


「うん、終わったよ。行こうか蘭」


 彼は磯貝悠馬くん。容姿は先ほど説明した通りで、成績優秀、スポーツ万能、さらに人望も厚く、学級委員を務めている。
 私も一応学級委員だが、これは完全に成績で決められたような気がする。担任の奴、言うこと聞いて扱いやすいのは良いが、私に色々なことを頼んでくる。雑用ならともかく、学級委員なんて大切な役をそんな理由で任せるか、普通。任されたからには全力でやるが、成績良いだけのクソ野郎だったらどうするつもりだったんだ。……まあ、悠馬くんなら最悪1人でも大丈夫そうだが。

 彼とは元々席が近く、更に同じ学級委員になったことで自然と会話が増え、仲良くなった。今ではお互いを下の名前で呼ぶくらい、親密な関係になっている。彼との会話は心地良い。親みたいに気遣うことは無いし、馬鹿な大人みたいにイライラすることもない。まあ中学生のアホなら許せるが。可愛いし。大人がアホでも可愛いどころか不快なだけだ。

 帰り道も途中まで同じなので、こういう委員会の日や何も用事がない日は、一緒に帰っている。


「今日の議題なんだっけ?」


「もうすぐテストだからそれじゃないかな」

「テストねえ……」

 私は顎に手を当て頷いた。この時期のテストは、正直小学校に毛が生えた程度のものだ。――とは言っても、この学校は一応進学校である。舐めてかかると痛い目に遭うのは想定済みだ。しっかり対策しなければ。


「蘭はまた余裕なんでしょ?」

 いたずら気に笑う悠馬くんに、私は笑みを返した。


「そうでもないよ。ある程度はやらないと」

「さすが優等生……素行は別として」

「ふふ、私って悪い子?」

 その私の問いに、悠馬くんは首を横に振った。


「誤解されやすいけど、とってもいい子だと思うよ」

「そ、そうかな……?」

 悠馬くんは私の頭を優しく撫でた。さすがの私も、その行為には照れてしまう。やりおる。



「図書室予約とっておいたから、一緒に勉強しようか」

 そう微笑む悠馬くんに、落ちない女子はいるだろうか。いや、いない。気抜くと惚れちゃいそうだ。


「……さすが悠馬くん、抜かりないね。かっこいいよ」

「ちょ、なんだよ! かっこいいって……」

 こうやってからかうと、悠馬くんは年相応の表情を見せる。かっこいいと言われて顔を赤らめる姿は、とても可愛い。こう見ると、大人びていても中学生だということが分かる。……ちょっとだけ安心。


「あんまりからかうなよ……」

「ごめんごめん。でも、かっこいいは本心だよ?」

 私はにこりと笑って、悠馬くんの腕を掴んだ。


「お、お前なあ……」

 悠馬くんは頭を軽く掻き、困ったように私を見つめた。


「……これで天然なんだもんな」

「何が?」

「蘭は、そのままで良いってこと」

「ふーん……?」

 はにかむ悠馬くんに、私は曖昧な返事をした。――本当に、このままでいられたら、それ以上の幸せは望まない。……なーんて、誰も思っていないんだろうな。







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