02


雨降花を摘んだのは、誰だろうか。、とん、ぽとん、雨が降っている。
その日は朝から物寂しい様子であった。街の全体が、厚い雲をとおした黄緑色の光をたたえている。庭先の合歓や通沿いの水銀灯、真鍮のとってに路地裏の猫も、みなしっとりと濡れ、ささやき合うような雨のおとの中で黙り込んでいる。
彼は朝から出掛けねばならなかった。大儀そうに傘をさし、しっかりした外套で背中をかためて、行きなれた舗道を歩いていく。黄緑色の風景の中、彼の行く道だけは墨をこぼしたようであった。
外套姿を覆い隠す傘に、雨粒がとんとあたって、はじけた。続けざまに、とん、ととん。まるで彼の肩を叩くように、その足をとめて、振り返ってと言うように、ちいさな雨粒たちが降りてくる。
だまろうとする気配もなく、ぽとん、降りてくる。
彼は順調に予定をこなした。一人きりで、ただ黙々とこなしていった。その目は行く先を見るばかりで、あとを追って降り続ける雨には一向に応えない。
とん、傘にはじける。
 ぽとん、水溜まりにはねる。
 ばらぁっ、木の葉から落ちる。
彼はそのおとを振り払うかのように、傘をくるりと回した。ざっ、傘の上でころがる雨粒は、飛ばされ消えていく。
 それでも雨はだまらない。
 とん、とんとん
 ぽとん、ばらぁっ
 とん、ととん
 ざっざっ、しゃらら
雨垂れは拍子を刻み、不規則的な雨粒が小さな旋律を生み出す。おとは出る側から消えていき、その痕を残すことはないが、それでも雨は彼に呼びかける。
黄緑色だった光は、いつのまにか金色へと変わっていた。透かし模様の布を重ねたような雲の上で、太陽がこの街での仕事を終えようとしていた。辺りが次第に薄暗くなりはじめ、彼は腕の時計を確認した。そろそろ彼も仕事を終える時間だ。
全ての予定をすませ、彼は玄関の戸をくぐった。とたん、戸がしまると、雨のおとはきこえなくなった。ぽろん、彼が閉じた傘から雫が滴り、名残惜しいような余韻を残して彼を見上げる。彼はそれを気にもとめず、奥へはいっていった。
扉の外で、雨のおとは続いている。


9/26 故依

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