「島が見えたぞーーーっ!!!!」
外から聞こえたルフィの声に、ラウンジにいたララはサンジと一緒に甲板へ出た。特等席に座るルフィの見つめる先には、緑豊かな島があった。
「春島のリベル島ね。大きな図書館があるみたいよ」
「図書館……」
ナミの言葉に、ララはふと思う。ヒプノ族の文献があるかもしれない。
「……図書館って、医学の本もあるのか?」
「ええ、あると思うわよ」
ナミの返事に、そうなのか!とチョッパーは目を輝かせた。ララはチョッパーに声をかける。
「チョッパー、一緒に行く? 私も探したい本があるの」
「おう、いいぞ!」
もしログたまるのに2、3日かかるなら、とサンジが口を開いた。
「おれも行っていいか? 見たこともねェレシピがあるかもしれねェ」
もちろん!とララとチョッパーは頷いた。
「とりあえずログがどのくらいでたまるか聞かないと……それにしてもあったかいわ」
うーんとナミが気持ちよさそうに伸びをする。確かに暖かく、ララは着ていたジャケットを脱いだ。
錨を下ろし、8人は町へ出る。
「おーーっ、ローグタウンと同じくれェデッカい町だなーー!!」
ルフィの言う通り、リベル島の町は人が多く、都会的だった。春の陽射しがぽかぽかと暖かい。ナミが町の人に聞いたところ、ログは2日でたまるとのことだった。
「明日図書館に行こうかしら……少し買い物したいわ」
「あら、それいいわね」
「あっちの方行ってみよ!!」
「いい? ルフィ、絶対面倒事起こさないでよ!」
「わかってるって!」
「いい素材がありそうだ!」
「その辺散歩するか」
ゾロ、道に迷わないでね、と声をかけると、うるせェな、迷わねェよと不機嫌な声が返ってくる。
「おうおう、マリモマン。わざわざララが心配してくれてんのに、その返事はねェんじゃねェか?」
「あ?」
喧嘩が始まりそうな二人をどうどうと宥め、図書館への看板を指差した。
「図書館あっちみたいだよ」
ルフィ、ウソップ、ゾロ、ナミとロビンはそれぞれ別の方向へ歩き出し、サンジ、ララ、チョッパーは、看板の方向へ向かった。
そこは想像以上に大きな図書館だった。3人でわくわくしながら入ると、背の高さを優に超える、大きな高い本棚が出迎えてくれた。本棚はいくつもあり、数々の本がびっしり詰まっていた。
「すげー…!!」
「あァ……」
見渡す限り本、本、本。ここにはどのくらいの本があるのだろう。世界中の本があると言われても、信じてしまうくらいだ。
「おっ、医学の本あっちだ!」
「料理関係は……そっちだな。ララは何の本探すんだ?」
「ん、民族の本……あっちみたいね」
それぞれ別の方向へわかれる。ヒプノ族についての本は、いくつか見つかった。今まで島に行くたび本屋をのぞいていたが、一族について載っている本はなかった。ララは感動を覚えながら、数冊持ってテーブルに座った。しかし、書かれている内容はどれも同じだった。ヒプノ族の特徴についてだけ。どこに住んでいたのか、いつ絶滅したのか。知りたい情報は書かれていなかった。
とうとう最後の一冊を開く。出版年が新しく、ララは少し期待して文字を追った。
――ヒプノ族。
深い青の髪と青緑の目が特徴。目を合わせた者は、たちまち心を操られる。一族はヨル島で生活していたが、現在では絶滅。原因は、一族の能力を恐れたヨル島の住民が、彼らの住む集落に火を放ち、皆殺しにした――
そこから先は読めなかった。
くらりとめまいがしたかと思うと、幾度となく夢に見た情景が、これまで以上に鮮明に浮かんだ。
襲い掛かる炎、近くで鳴る銃声、逃げまどう人々、友達の死体、両親の叫び声――
フラッシュバックと同時に、目の前が真っ暗になり、ララは意識を手放した。
*
瞼を開けて見えたのは、見慣れた天井だった。
「……大丈夫か?」
横を見ると、サンジとチョッパーがこちらを心配そうに見ていた。頷き体を起こそうとするも、チョッパーに止められる。
「まだ顔色が悪いから、安静にした方がいいぞ」
ララは医者であるチョッパーの言葉を受け、そのまま枕に頭を乗せた。ふう、と息をつく。少し気分が悪い。あの時、一度に多くの情報が、頭の中に押し寄せてきた。
「図書館で気ィ失ってたぞ、何かあったのか?」
「……記憶が、戻ったの」
「!」
「記憶?」
ハッとするサンジと、首を傾げるチョッパー。ララは再び息をつくと、痛むこめかみに手をやった。
――話さなければ。
「ごめん……夜にみんなを、船に呼んでくれる?」
二人にそう言うと、サンジは心配そうに、チョッパーはクエスチョンマークを浮かべながら頷いた。
少し一人になりたいと言い、二人が部屋から去った後、ララは額に手を当てる。気分は未だにすぐれない。それでも、いっぺんに押し寄せた記憶をひとつひとつ整理する。仲の良い両親、同い年の友達、陽気な村長、よくしてくれたおばさん、柔らかな陽射しが反射する湖面、笑いの絶えない村。
――幸せだった。しかし、今はもう、
どっと悲しみが押し寄せてくる。溢れ出す涙を拭うことなく、ララは人知れず枕を濡らした。
20180405
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