皆の反応は様々だった。息をのむ者もいれば、ロビンのように知っていた者(あら、知らなかったの?)、ルフィのように納得していない者もいた。
でもよォ、と彼は口を尖らせながら言う。
「おれたち、ララと散々目ェ合わせてたけど、操られたりしなかったぞ?」
「それは、私が操ろうとしなかっただけで……」
「今まで催眠かけたことはあるのか?」
ゾロの質問に、ララは首を振る。本当に催眠をかけられると知るのが怖く、やったことはなかった。
「たぶん、ないと思う……」
わかった!、とルフィは突然パンと手を叩いた。
「今おれに、その催眠ってやつをかけてくれ!」
「えっ?」
ルフィは、じーっとこちらを見つめてくる。戸惑いながらもララは、一つのことを願いながら彼の純粋な瞳を見つめた。両者はしばし見つめ合っていたが、ルフィに何の反応もなかった。
「……そのくらいでいいんじゃねェか?」
サンジの声に、二人は目線をそらす。なんもなんなかったなァ、とルフィは首を傾げた。
「ララは、何を念じたんだ?」
「ルフィが変顔するようにって」
でも何もなかった、とララは呟く。よかったような、よくないような。複雑な気持ちになっていると、ルフィはニカッと笑った。
「まっ、催眠できようができまいがララはララだ!!」
そろそろメシ食いに行こう、メシ!と彼は立ち上がる。その太陽のような笑顔と言葉に、ララは救われた気がした。ルフィは時々、人の心が読めるんじゃないかと思う時がある。
皆も笑みを浮かべながらテーブルを立ち、町へ出る。ネオンの煌めく町は、昼間とは全く違う様相を呈していた。
「……大丈夫か?」
周りを見ていると、いつの間に隣にいたのか、チョッパーが小声でささやいた。
「目がちょっと腫れてる……泣いたんだろ?」
さすがチョッパーだ。隠し通すのは無理だと思い、頷いた。
「うん、大丈夫」
ちょっと悲しかったけど、今はもう大丈夫だよ、と本当の気持ちを言うと、そうか?とこちらを心配そうに見上げてくる。自然と笑みがこぼれた。
「ふふ、チョッパーは優しいね」
「や、やさしくなんかねェよ、コノヤロー!」
チョッパーは照れているのか、言葉とは裏腹に嬉しそうな顔をした。
ルフィが見つけたレストランでおいしい夕食を食べ、今日は宿をとることになった。いつも通り、サンジと一緒の部屋だ。二人で中に入り、ベッドに並んで座る。
「……大丈夫か? 今日は疲れたろ?」
寝ていいぞ、と言われるが、ララは首を振った。
「ううん……今話すよ」
戻った記憶の一つ一つを、丁寧に話しだす。彼には、自分を全て知って欲しかった。しかし最後の記憶は、やんわりと伝えた。
「もともとヨル島の住民とは、折り合いが悪かったみたい。だから、ああいうことになったんだと思う……」
話し終えた後は、二人とも無言だった。カチ、カチ、と時計の針の音が部屋に響く。先に口を開いたのはサンジだった。
「ララは……その住民たちを恨むか?」
――生きて!! あなただけは生きるのよ!!!
去り際の母の叫びが、頭の中にこだまする。
「……恨まないよ。それはお父さん、お母さんが望んでないと思う」
「そうか……ララの本当の名前も、思い出したのか?」
「うん……でも、教えないでおく。今の私はもう、ララがしっくりくるし、急に呼び名が変わっても、戸惑っちゃうでしょ?」
第二のお父さんがつけてくれた名前だしね、と笑うと、サンジもそうだな、と微笑んだ。
「話してくれてありがとう」
うん、と頷く。話したらなんだかすっきりした。んー、と伸びをして、立ち上がる。
「先にお風呂、入っていい?」
「…………」
「サンジ…?」
サンジは下を向いて、何か考え事をしているようだった。呼びかけると、はっとこちらを見る。
「ん? ああ、悪ィ、入っていいぞ」
「うん……」
サンジを気にかけながらも、ララはバスルームのドアを開ける。自分の話の中に、何か引っかかることがあったのか。それとも。
サンジがバラティエに入る前の話を、ララは知らない。聞いたこともなかった。しかし、気になってはいた。海賊だったゼフと、子供だったサンジはどこで出会ったのか。サンジが幼い時から、ゼフがそばにいたのか。
Tシャツを脱ぎ、ララは頭を振る。考えるのはやめよう。人には、話したくない過去があるものだ。
20180405
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