la mer

 クリークが出ていき、しんとする室内で、ギンが口を開いた。

「サンジさん、すまねェ!! おれはまさか、こんなことになるなんて……!! おれは…」

「おい、てめェが謝ることじゃねェぞ下っ端」

 ゼフが言う。

「この店のコックがそれぞれ、自分の思うままに動いた。ただそれだけのことだ」

「オーナー!! だいたいあんたまでサンジの肩を持つようなマネするとは、どういうことですか!!」

「オーナーの大切なこの店を、あいつはつぶす気なんだ!!」

「なァサンジ!! この機にうまく料理長の座を奪う方法でも思いついたか!! 本当に脳ミソイッちまったかどっちだ!!!」

「黙れボケナス共!!!」

 ララが口を開く前に、騒ぎ出すコックたちをゼフが一喝する。

「てめェらは一度でも死ぬほどの空腹を味わったことがあるのか。広すぎるこの海の上で、食料や水を失うことがどれほどの恐怖か、どれほどつらいことかを知ってるのか!!」

「え…ど、どういうことです、オーナー」

「済んじまったことをグチグチ掘り返してるヒマがあったら、裏口からさっさと店を出ろ!!」

 ゼフの言葉に、コックたちが床に置かれた武器を手にし始めた。ララも立ち上がる。

「……私も戦うわ」

「ララ、お前はダメだ」

「なっ、どうしてよ、オーナー!?」

「今回の敵は今までみてェな小物じゃねェ。それにお前は病み上がりだ。おとなしく裏口から逃げとけ」

 そんな、とララが反論しようとしたとき、サンジがタバコを吸いながら言った。

「……ララはおれが守る。それならいいだろ、クソジジイ」

「ハン、クソガキが。一端の口をききおって」

「な…何言ってんだあんた達、ドンの力はさっきみたハズだろう!? 逃げたほうがいいぜ!!」

「おい、ギン」

サンジが口を開く。

「お前に言っとくが、腹をすかせた奴にメシを食わせるまではコックとしてのおれの正義。だけどな、こっから先の相手は腹いっぱいの略奪者。これからおれがてめェの仲間をぶち殺そうとも文句は言わせねェ。この店を乗っ取ろうってんなら、たとえてめェでも容赦なくおれは殺す。いいな」

 ギンはゴクリと唾を飲んだ。

「な! なんかあいついいだろ?」

 ルフィの言葉に振り向くと、彼は仲間たちと笑いながら話していた。本当にサンジを連れて行く気なんだ。ララの胸は痛んだが、サンジのことを思えばそれが最善。ララは首を振り、自分の甘い考えを打ち消した。

「そういえばギン。お前グランドラインのこと何もわかってねェって言ってたよな。行ってきたのにか?」

「わからねェのは事実さ。信じきれねェんだ…グランドラインに入って7日目の、あの海での出来事が現実なのか…夢なのか。まだ頭の中で整理がつかねェでいるんだ…突然現れた、たった一人の男に、50隻の艦隊が壊滅させられたなんて…!!」

 たった一人に海賊艦隊が潰されただと!?と皆が騒然とする。

「ただ恐ろしくてあれを現実だと受け止めたくねェんだ…!! あの男の人をにらみ殺すかと思うほどの、鷹のように鋭い目を思い出したくねェんだ!!!」

 頭を抱えガクガクと震えるギンに、ゼフは言った。

「そりゃあ…鷹の目の男に違いねェな」

 鷹の目。聞いたことはないが、すごい人物なのだろう。

「…艦隊を相手にしようってくらいだ。その男、お前らに何か恨みでもあったんじゃ?」

「そんな覚えはねェ! 突然だったんだ」

「昼寝の邪魔でもしたとかな…」

 ゼフの言葉にギンが怒鳴った。

「ふざけるな!! そんな理由でおれたちの艦隊が潰されてたまるか!!!」

「そうムキになるな。もののたとえだ。グランドラインって場所はそういう所だといってるんだ」

「くーーっ、ぞくぞくするなーーっ!! やっぱそうでなくっちゃなーーっ」

「これでおれの目的は完全に、グランドラインに絞られた。あの男はそこにいるんだ!!!」

 わくわくしているルフィと緑の髪の男をサンジが振り返り、呟く。

「…ばかじゃねェのか。お前ら真っ先に死ぬタイプだな」

「当たってるけどな…バカは余計だ。剣士として最強を目指すと決めた時から命なんてとうに捨ててる。このおれをバカとよんでいいのは、それを決めたおれだけだ」

 そう言った緑の男を、ララは純粋にかっこいいと思った。おれもおれも、とルフィも手を挙げる。ふふ、と思わず笑みがこぼれた。

「…けっ、ばかばかしい」

 そう言ってサンジは前を向く。ララはゼフがにやりと笑ったのを見逃さなかった。

「おいおい!! このノータリン共!! 今のこの状況が理解できてんのか!? 現実逃避はこの死線越えてからにしやがれ!!」



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