ビッグ・マムが今度は太陽らしきものに乗って追いかけてくる中、船は最高速度で逃げる。いつまでも逃げ切れるとは思えない。島は見えないかと目を凝らす中、一隻の船が目に入った。甘い、いい匂いがする。これは――
「みんな、サンジがケーキを作って帰ってきたよ!!!」
「ウオオ、サンジ〜〜〜!!」
「サンジさん〜〜〜」
「ララ〜〜〜〜ナミさァ〜〜〜ん 助けに来たよォ〜〜」
船首のほうでサンジがくねくねしている。ララは呆れながらも変わってないなあと笑った。
いつ来たのか、気づくとサンジがプリンの絨毯から、サニー号へ降りた。
「よっ、戻ったぞ!!」
「サンジ!! プリン!!」
「サンジ君!!」
「サンジさん、プリンさん!!」
みなで一斉にサンジへ抱き着いた。
「よくぞご無事でー!!」
「お前らこそ!!」
「もうムリかと思った!! ありがとう〜〜!!」
ララも礼を言いたかったが、久々に感じるサンジの体温に泣きそうになり、何も言えなかった。頭を撫でられ上を向くと、サンジは優しく微笑んでいた。その笑みを見て、余計に泣きそうになり、下を向いてゆっくりとサンジから離れた。
「ところでサンジさん――なぜベッジの船に!?」
「――ケーキを食った後のマムの行動は予測不能。だからあいつらが近くの島へケーキを運んでくれるんだ」
「え!? まるで囮。なぜそんな親切に!!?」
「――まだ暗殺を諦めてねェらしい。おれはこの船が助かればそれでいい。マムを引き付けてくれるなら万々歳だ――しかし、派手にやられたな」
ボロボロになった船を見て、サンジが言う。
「すまん。わしがおりながら……!!」
「何言ってんだ、ジンベエがいなかったらおれたちとっくに…」
「話はあとだ、無事でよかった。ペドロとキャロットちゃんはどこに?」
「!!」
サンジにこのことは伝えられない。ブルックもとっさにそう判断したのか、こう言った。
「寝てます!! 戦いつかれて部屋で…二人とも!!」
幸いサンジはなぜかを聞かず、そうかと頷いた。そしてカカオ島でルフィと落ち合うことが、ビッグ・マム側にバレているということを話した。
「カカオ島はおそらく、待ち伏せの艦隊で包囲されてる!!」
「珍しく強敵認定されとるようじゃのう。最後にして最大の難関……!!」
「艦隊と戦っても敗北は見えてる……カカオ島までは?」
「3時間と少し…!! ちょうど約束の深夜1時到着予定」
カカオ島に着いても、ルフィがいつ、どこの鏡から出てくるのか見当もつかない。そうチョッパーが呟くと、サンジが策を考えてあると言った。彼の策はこうだ。カカオ島の艦隊と軍隊の間には必ず、カタクリが帰ってこられるように鏡が用意されているはずで、そこからルフィが出てきた瞬間に、空を駆けることができるサンジがルフィを連れてサニー号へ戻る、というものだ。サンジがカカオ島に移動するために、プリンの絨毯に乗り、彼女と一緒にルフィを待つ。
サンジの身に何か起こるかもしれないという心配はあったが、他に案は浮かばず、皆もそれに賛成した。
「サンジ、絶対無事に戻って来いよ!!」
「ルフィさんをお願いします!!」
皆がサンジにそう言う中、宙に浮かぶ絨毯に乗るプリンに声をかけられた。
「……ララ、ちょっといい?」
「?」
絨毯から降りたプリンと一緒に、少し皆と離れたところへ行く。
「何…?」
「あなたに謝りたくて……サンジさんをあんなひどく言ってしまって、あなたを縛り付けて……本当にごめんなさい」
お辞儀したプリンに、ララは笑って返す。
「いや、いいよそんな……サンジは生きてる。それで充分。それに私より、もっと謝るべき人がいるでしょ」
プリンははっとしたようにサンジを見た。
「……サンジの前じゃ素直になれないと思うけど、悔いは残さないようにしたほうがいいよ」
プリンとサンジは、カカオ島で別れる。もう会うことはないだろう。それならば、後悔のないようにしてほしい。
プリンを思ってそう言うと、サンジの声が聞こえてきた。
「おーい、ララ、プリンちゃん。早く行かないと」
「戻ろっか」
「うん」
プリンと一緒にサンジ達のところへ戻る。そして、プリンとサンジは絨毯に乗り、カカオ島へ飛び立っていった。
*
サンジは満身創痍のルフィを連れて、サニー号へ戻ってきた。
「ルフィ〜〜〜〜!!! 無事でよかった――――!!!」
疲れ果てた様子で眠っていたルフィは、ふが!!と目を覚ました。
「お、おー……お前ら…待ちくたびれたぞ……!!」
「うそつけ―――!!」
「まだキズが生々しい」
「チョッパーさん、すぐ手当を!! もうコレ限界の出血量ですよ!!」
「おう!! サンジ、お前もだ。撃たれてるぞ!!」
「ん? ああ……」
近くでタバコを吸っていたサンジは、今傷に気づいたように、ぼんやりと言った。何か、様子が違う。
じっと見ていると、ドーンとサニー号の近くに砲弾が落ちた。後ろから来たビッグ・マムの追手から落とされたのだ。
「いつの間にか距離がつまってますよ!!」
「まだ逃げ切れたわけじゃない!! 手当は逃げながら!!」
どこからか、「撃て!!!」という声とともに、追手たちの船に砲弾が当たった。
「え」
ジャッジがジェルマの城の中に立っていた。自然とララは彼をにらんでしまう。サンジも睨んでいたらしく、ジャッジはぎろりとこちらを見た。
「そいつが何だというのだ!!! 麦わらのルフィ!! ここは踏み込めば二度とは出られぬ、『四皇』ビッグ・マムのナワバリ!!! そいつを一人取り戻すために命を賭けたのか!?」
ルフィは答えず、ジャッジを見つめる。
「サンジはジェルマの失敗作だ!!!! 皮膚も楯とならず、メシ炊きに従事し、王家のプライドもない!! つまらぬ情に流され、弱者のために命を危険に晒すような脆弱な精神!! 兵士としてあまりに不完全な出来損ないがその男だ!!!!」
「…………」
ララとサンジ以外の皆は、驚いたようにジャッジを見ていた。そして――
「じゃあな!! 援護ありがとう!!」
ルフィが手を挙げて叫んだ。逆上したように、ジャッジが言う。
「何とか答えたらどうだ!!! 麦わらァ!!!」
ルフィは答えず、サンジを見上げた。
「びっくりした、なんであいつ急にお前のいいとこ全部言ったんだ?」
「な!!」
「そういう意味で言ってねェだろ、あいつは!!」
ジンベエが笑うのと、ララが噴き出すのは一緒だった。
「わはははは!! 最高じゃな、お前たち」
「ふふ……」
サンジの自己犠牲はなおしてほしいとも思うけれど、確かにいいところでもある。
それからジンベエのいた魚人海賊団に助けてもらい、サニー号はビッグ・マムのナワバリから逃げ出すことができた。
「……ペドロはまだ寝てるのか?」
サンジに聞かれ、ララは少し迷ったが、隠しきれることではないので本当のことを話した。
「……そうか、ペドロは……死んだのか…」
サンジは茫然を海を見つめ、呟いた。
「おれを迎えに来たせいで……」
それは違うと言いかけた時、近くにいたキャロットが、サンジの頭をさすさすと撫でた。
「大丈夫!! 大丈夫だよ!! サンジ!! ペドロは自分の意志でそうしたの!! 責任なんか感じないで! サンジ。ゆティアたちがモコモ公国を救ってくれたら、恩返しに来たんだよ!! ペドロがいなかったら、あの時みんな死んでた……!!」
だんだんと震えるキャロットの声に、ララは胸を痛めた。
「だがら……『ありがとう』って、言ったげで……!!! これでよかったんだがら……!!!」
サンジはキャロットの頭に、ぽんと手を置いた。
「わかってる、どういう男かは」
わっと泣き出したキャロットを、サンジが引き寄せる。ララも彼女の背中をさすってあげた。
得るものがあれば、失うものもある。四皇のもとに行くということで覚悟はしていたはずだが、足りなかったようだった。ペドロの命を無駄にはできない。彼の分まで、進んでいこう。
そして、サンジをこれからも支えていけたら。彼を見上げると目が合った。目が合ったことが嬉しく、微笑むとサンジも微笑み返してくれた。
サンジがこれからもずっと、笑顔でいられますように。ララは心の底からそう願った。
20190512
奪還編終わり
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