あれから何時間経っただろう。日がどっぷりと暮れたころ、サニー号はビッグ・マムの手下たちに挟まれてしまった。砲弾もコーラもすでに底をつき、逃げることも迎えることも難しい。
「――これは横へそれても八方塞がれます。前方を突っ切るしかありませんね!!」
「前方は3男、ダイフクの船のようじゃ…魔人を操る! 手ごわいぞ」
「おれ! 暴れるから! 飛び移れる距離まで行ってくれ!!」
チョッパーがそう言うが、近距離になればタダでは済まない。でも今はそうするしかない。行きましょう!!とナミが言ったその時、上からキャロットの声がした。
「チョニキ! みんな――!! 私にやらせて! きっと役に立てるよ!」
「!?」
「今夜は満月だから!!」
空を見上げると丸い月が浮かんでいる。ジンベエは何か知っているようで、驚いたように言った。
「――まさかスーロンに。お前さん、訓練はしてあるのか!?」
「大丈夫! ペドロに鍛えてもらった! 私これでも『銃士隊』だよ!」
帽子を脱いだキャロットは月を見上げた。そして雷が落ちたようにバチバチと電気を発しながら、大きな鳴き声を上げた。どんどん髪が伸び、目も赤くなっていく。
「キャロット!!? ……髪まで真っ白!! 目も赤いし、別人みたいだ!!」
「何と神秘的……」
「これって……ミンク族の真の姿……!!!」
イヌアラシがゾウで言っていた言葉を思い出す。あの時彼は言った。『次戦うなら、ミンク族の真の姿を見せてくれる!!!』――
キャロットは船から船に飛び移り、手下たちを感電させていった。ジンベエからスーロン化は諸刃の剣だと聞いたブルックも、海を走って助太刀に向かう。前方の航路確保は二人に任せ、自分たちは後ろの敵を相手にする。
前方の船の舵を皆壊した後、ブルックに抱えられてキャロットは戻ってきた。ナミが彼女を抱きしめる。
「キャロット、ありがとう。大ピンチ脱出よ!!」
「えへへ… 月見えないお部屋にいていい?」
「女部屋のベッドで休んでていいよ」
そう言うと、「ありがとう」とキャロットは微笑み、船のドアへ歩いていった。少しふらついているのは、力を使い果たしたのだろう。本当にありがとう、とその背中に言うと、彼女は手を振ってくれた。そしてキャロットが船の中へ入った時――
「ビッグ・マムがくるぞ―――!!」
チョッパーの声にハッとしたと同時に、ビッグ・マムが目の前に現れた。
「うわあああああ〜〜〜〜!!!」
「ウソ……!!」
「ケーキは…どこだい……?」
「下がっておれ!!! お前たち!!! 船の乗り捨ても覚悟しろ!!!」
この船にケーキがあると思い込んでいるビッグ・マムに、ジンベエが応戦する。そして、
「”武頼貫”!!!」
魚人空手により、ビッグ・マムは船から出された。
「やった――!!! 追い出したァ!!」
「船の速度を下げるな!! ペロスペローたちに追いつかれては、いよいよどうにもならんぞ!! 悪いがビッグ・マムはすぐ立ち上がる」
ジンベエの言葉通り、ビッグ・マムはすぐにこちらに向かってきた。今度はビッグ・マムが乗る雷雲をブルックが切り、ナミが雷を起こさせ、ビッグ・マムを感電させる。
「時間は稼げたぞ!!」
「やった――!! ブルックすごい――!!」
ブルックはビッグ・マムが乗っていた雲を持ってきたようだった。雷雲ではなくなり、小さくなっている。かわいい、と思わずララは呟いてしまった。
「あら ゼウス。勘違いしちゃったのね… 私別に友達になろうって言ったんじゃないの。もう一度聞くわね……! ――私のしもべになる? それとも――しぬ?」
むぎゅと雲をつかみそう脅すナミに、雲はガクガクと震えている。かわいそうに思ったが、雲が味方になれば心強いので(ナミが怖いというのもあるが)、ララは何も言わなかった。
20190510
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