自分を呼ぶ声で、目が覚めた。
「ララ!!」
まず目に入ったのは、船を食べようとするビッグ・マム、そして大砲をこちらに向ける多くの船、それから大男――カタクリをエレファントガンで止めるルフィ。
「ブルック!! チョッパー!! キャロット!!! 必ず戻る!!! 後は頼んだ!!!」
「え!?」
「砲弾が来る!!!」
「と…飛ぶんですね!? じゃ、サメちゃんも!!」
ブルックの言葉にハッとし、縄を急いで持ってくる。ブルックがそれを投げ、シャークサブマージ3号に引っ掛けた。
「ゆくぞ!!!」とジンべエが叫ぶと同時に、サニー号は空へ飛びあがった。すぐに船の縁にしがみつく。
「ねェ!! ルフィは?」
そばにいたナミの声に、ルフィのいた芝生甲板を見ると、そこには誰もいなかった。かわりにあったのは、女部屋にあるはずのドレッサーだけ。ナミは何かに気づいたのか、はっと唇をかみしめた。その表情の意味を知ることができたのは、ビッグ・マムたちのいる島からだいぶ離れた海に、サニー号が着水したあとだった。
ナミたちから聞かされたのは、受け入れがたい事実だった。自分たちがペロスペローという名の飴男にコーティングされている間に、まさか、ペドロが――
「我々がもっと……強ければ……!!」
ブルックの言葉が突き刺さる。加勢に行ったというのに、何も力になれなかった。プリンの言うとおり、彼女の兄たちは太刀打ちできないほどに強かった。
不甲斐なさに涙が出てくる。ペドロは死んでしまった、もう戻って来ない――
「泣きたいのは敵方じゃろう。こっちが心を乱すな」
ジンベエの声に、ララは顔を上げた。ブルックが怒ったように言う。
「ちょっと、ジンベエさん!!! よく吐けましたね、そんな薄情なセリフ!! あなた一番ペドロさんとの付き合いが短いから」
「緊張の糸を解くなと言うとるんじゃ!!!」
「!!」
「お前さんらが来たことで、敵はどれほどの損害を受けた!? 奴らにしてみりゃ前代未聞の大失態!! お前たちの中のペドロは言うておらんか? 『進め』と!!! ルフィは瞬時にそれを察知し、敵を一人で請け負う策を講じた!! カタクリは10億を超える賞金首…!! 一か八かじゃ!!! ビッグ・マムの覇権の轟くナワバリを抜けるまでは、緊張の糸を緩めるなと……ペドロは言うておらんか!!?」
ジンベエの言葉は、じんと胸に響いた。それはララだけではなかったらしく、チョッパーが大声をあげながら大きくなった。
「ナミ、指示をくれ!!」
「サンジ君たちがカカオ島からこっちへ向かってくる約束だから、すれ違いは避けなきゃ……!! 船は面舵!! もうすぐ強風が吹く、追い風よ!! 右舷で風を受けてまっすぐ西へ!! 最短距離で行くわ!!」
「私、使ったコーラ足しときます!!」
「ブルック、私も手伝う!!」
彼と一緒にエネルギールームまで行き、コーラを足そうとしたが、もうコーラは底をつきていた。
ナミたちに報告しようと甲板に出たところで、大きな高波が見えた。高波は船を優に超す高さで、このままでは完全に飲み込まれてしまう。
「そうだ、クー・ド・バースト!!」
「ムリです!! コーラ足りませんでした!!」
「ペドロ、ごめん……!! せっかく生かしてくれたのに」
「わしに考えがある。すべての帆を一つの縄でつないでくれ!! わしが操る」
「!!」
「急げ!!」
「はい!!」
急いですべての帆に縄を括り付ける。ジンベエがその縄を引き、充分だと言った。
「ナミ!! 風は!?」
「南から強い風が来る!! 何するの!? ジンベエ!!」
「高速でタッキングする!!」
「ウソでしょ!? 何で旋回するの!!?」
「『グリーンルーム』へ入る!!!」
グリーンルームとは何だろう。知っているはずのナミでさえしくしくと泣き出したので、とてつもなく無謀なことなのだとわかった。しかし今はそうするしかない。ジンベエの言うとおりに、船にしがみつく。気が付くと――
「波の中〜〜〜〜〜〜!!?」
サーフィンでもしているかのように、高波の中にいた。
「抜けるぞ、掴まれェ〜〜〜!!!」
「わあああああ〜〜〜〜〜!!!」
「すごい…!! スループ船をまるで手足のように……!! こんな操舵手見たことない!!」
「すげーぞ、ジンベエ〜〜〜!!」
ビッグ・マムの高波から逃げきれた途端、ナミがはっとしたように言った。
「みんな、船の中にある鏡を全部割って!!」
「どうして、ルフィがここに帰ってこれなくなっちゃう!!」
鏡の中にルフィたちは入ったのだと聞かされていたためそう言うと、ナミは船の中に入りながら答えた。
「いいから、全部割って!! ルフィの邪魔をしたくないでしょ!! これは船長命令、急いで!!!」
ナミの気迫に、皆それぞれ散らばって鏡を割る。全部割ると、チョッパーが鏡の破片に囁いた。
「おいルフィ、話があるから敵から離れてくれ!」
『チョッパー!! お前ら無事なのか!?』
「うん!」
「全員無事だよ、ルフィ」
『何があった!? サニー号は沈んだってアメ男が!!』
「沈むと思ったよ、おれ達も!! だけどジンベエがすごくてよー」
「ルフィ!! 船の鏡はすべて割ったよ!!」
「――これでこっちに敵は来れませんが、あなたも帰ってこれません!!」
『ああ、いいんだ、それで!! おれは何とか……』
「なるわけないでしょ!? 策もないくせに! ――よく聞いて、ルフィ!! サンジ君が今ケーキを作ってる『カカオ島』。私たちはそこに向かってる!! 到着は最速で10時間後! 深夜1時ごろよ。いい? そいつをぶっ飛ばしたら『カカオ島』に続く鏡を探して!! そこで落ち合いましょう!!」
『!!』
「ルフィ?」
ナミが声をかけた瞬間、鏡の破片が粉々に割れた。
「ルフィ? 何かあった?」
声の代わりに轟音が聞こえてくる。大丈夫だろうか。みな心配していると、
『急いで来いよ! お前ら!さっさと着いて…待ちくたびれそうだ!!』
「おう!!」
『後でな!!』
パリンとルフィが鏡を割る音で途切れた。皆は元気そうなルフィの声に安堵したが、ララはその声に引っ掛かりを感じた。無理して元気な声を出しているような……気のせいだといいけれど。
20190510
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