最終話*ハートの海賊団へようこそ
「い……いたい……確実に前より、痛い」
身体を重ねた後、また一眠りしたクーラがベッドから下りようと身体を動かすが、下腹部に激痛が走る。
「三億の賞金首が初めてのセックスくらいでそんなに痛がってんじゃねェ。」
クーラがソファーに座っているローを無言でじろりと睨む。ローは寝ている間にシャワーを浴びたようで上半身裸姿に濡れた髪から肩に掛けたタオルに水滴が落ちている。
「……お前が悪い」
ローは「しょうがねェな」と続けて呟くと立ち上がってクーラに歩み寄り、ひょいと抱きかかえた。
「どこに行きたい。」
所謂お姫さま抱っこをされているクーラは「シャワー。」と不機嫌そうな顔で言うと、ローがシャワールームへ連れて行った。
「後は一人で大丈夫だから」
シャワーの前に下ろされたクーラが低めのトーンで言う。
「そう怒るな。」
「誰のせいよ…………なんてね!」
怒った顔をしていたクーラが途端にプッと吹き出して笑う。
「ふふっ。……痛かったし今も痛いけど、嬉しいの。その……ローが、気持ち良くなってくれて」
ローから目を反らして照れ笑いする。
一瞬眉を上げたローが安心したように口元を緩めた。
「……痛くなくなれば、お前も死ぬほど気持ち良くしてやるよ。」
ローの笑みがいたずらっぽいものに変わる。
「もうっ……!シャワー浴びるから部屋戻ってて」
赤面しているクーラがローの胸を押してシャワールームから出るように促すと、ローが怪しく笑いながらクーラに背を向けてシャワールームを出て行った。
クーラがシャワーを浴び、時々ローの手助けを借りながら身支度を済ませた。
「今日船を出す、行くぞ。」
「うん。」
ローがクーラに鬼哭を渡すと、目の前で背を向けしゃがみ込んだ。
「ほら、来い」
「……ありがと」
鬼哭を渡された時、何となくそうしてくれるだろうなという予想をしていたクーラは抵抗をすることもなく、ローの背中に身を預けた。ローが立ち上がりクーラの荷物を持つと、クーラの足を腕に挟んだ。
「フッ、重くなったな。」
「良い身体になったでしょ?」
クーラがローの耳元でふふっと笑うと、ローの首に腕を回した。
「……ああ、心配になる程にな。」
そう言うと、ローはゆっくり歩き始めた。
「私をおんぶするの、何年ぶりか覚えてる?」
「7歳とか8歳じゃなかったか、最後は」
「私覚えてるよ、8歳の時。ローを追いかけてて、こけちゃって、怪我して。」
「ああ、あの時か……」
「そうだよ。ローの背中も大きくなったね。」
「…………」
「どうしたの?」
「つくづく、不思議な感覚だな。」
「ふふっ、そうだね。」
話しながらローの背中で揺られていると、見覚えのある黄色の潜水艦が見えて来た。
「もう大丈夫だよ。歩けるくらいには落ち着いたから。おんぶされたままじゃ格好つかないしね。」
クーラがそう言うとローは静かにクーラを下ろし、鬼哭をクーラの手から取った。
「ありがとう。」とローの頬にキスをすると、返事をするようにローがクーラの首に手を回して唇同士を触れ合わせた。
「えへへ、ベポやペンギン、シャチたちは元気かな?」
「あいつらは相変わらずだ。いい意味でも、悪い意味でも、な。」
二人が船に近付くとハートのクルーたちが船から顔を出した。
クーラが「みんなー!久しぶりー!」と声をあげると、全員「クーラか!?」と一斉に驚きの声をあげた。
船に乗ると、クーラは甲板で待っていたクルーたちに囲まれた。シャチが一番に駆け寄ってくる。
「クーラ!久しぶりだな!あんまり成長した気がしねぇが、強くなったんだな!」
シャチはクーラの肩をばんばんと叩く。
「シャチ!変わらないねー!また私と戦ってね!」
「さ、三億には勝てねぇよ……」
沈むシャチに変わってベポがクーラに寄って来ると、クーラは勢い良くベポに抱き着いた。
「久しぶり!格好良くなったねー!また、よろしくね、クーラ!」
「わ、更に気持ち良くなってる!こちらこそよろしくね、ベポ!」
他のクルーたちが次々と声を掛けていき、最後はペンギンがゆっくり近付いてきた。
「あの時よりいい女になったな、クーラ。おれの入る隙はありそうか。」
「久しぶり、ペンギン。ペンギンもあの時より格好良くなったとは思うけど、残念ながら私はローしか興味ないの。」
ペンギンがわざとらしく残念な顔をして「そうか」と言った後、クーラの隣に居たローが「出港するぞ!」と大きな声でクルーたちに告げた。
ローがクーラの前に立つ。そのすぐ後ろには手を頭の後ろで組んで大きく歯を見せて笑うシャチと、腕を組んで口角を上げるペンギン、「アイアイ!」と敬礼するベポ。
ローが右手に持った鬼哭を肩にトン、と置くと、左手をクーラに差し出し、いつもの様にクールに微笑んだ。
「ハートの海賊団へようこそ。歓迎する。」
end.
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