35*ばいばい、と頼もしい背中に



このまま夜が明けなければ良いと願ったけれど、時間を止めることなんか出来なくて、明るくなっていく空と反比例してクーラの心は沈んでいく。
結局あまり眠れないまま朝になり、ローがもぞもぞと動き始めて目を覚ました。


「おはよう。」

「ああ。」


おはようのキスと共に始まったローと恋人で居られる最後の朝。
何度か軽く唇を重ねて、ローはいつも通り身体を起こして顔を洗う。クーラは後ろからこっそりついていって後ろからお腹に手を回してがっしり抱き締め、背中におでこを付けた。

「どうした。」

びくりともせずタオルで顔を拭くロー。

「好きな人と離れたくないと思うのはいけない?」

「どこか行く訳でもねェし、この距離は離れるには入らねェだろ。」

「ね、ぎゅってして?」


ローは無言でクーラに向き直るとその身体を腕に包んだ。上半身裸のローの身体の暖かさが直接クーラに伝わり、安心感を与える。


「ありがとう。」

ローがクーラの頭をぽんぽんと撫でるとフッと笑う。

「礼を言うことじゃねェだろ。」

「……そうね。」


クーラはローの胸に顔を埋めて、泣いてしまわないよう、下唇をぐっと噛んだ。


二人は身支度をして、船を下りて適当に朝食を済ませ、再び船へ戻った。

「いつ出港するの?」

「昼過ぎ頃だな。」

(結局あれからペンギンと話せてないけど、大丈夫かな。)
一縷の不安を感じながらも、ペンギンならやってくれると、何となく思えた。


「シャボンディで過ごしたの、すごく、楽しかった。」

「広ェし退屈はしなかったな。だが、面白ェのはこれからだ。明日は火拳屋の処刑だ、今までにないでけェ戦争が果たしてどんなものか……。」

「それ、私的には何の面白味もないけど。」

「お前を危険に晒したりはしねェから安心しろ。」

「頼もしいわね。」


甲板で潮風に当たりながら"恋人"ローとの何気ない会話を楽しむ。
日が高くなっていくにつれて船に続々とクルーたちが戻って来て出港の準備をし始めた。


「シャチとペンギンがまだ戻ってねェな……。おいベポ、あいつらどうした。」


少し遠くに居るベポにローは尋ねる。


「んー、昨日ふたりでお酒飲みに行ってたけど、それから見てないよ。飲みすぎてまだどっかで寝てるんじゃない?」

「……ちっ。」


それから少しして船が賑やかに慌ただしくなってきた頃、シャチがばたばたと船に上がってきて「せ、船長!」とローに駆け寄った。


「なんだ。」

「はぁっ、はぁっ……ペ、ペンギンが!賞金稼ぎに捕まっちまった!船長を出せって言ってるみたいで……!」


息を切らして話すシャチ。
ローは目を鋭くさせて「どこだ。」と短く言うとベポに「刀を持って来い」と指示した。


「アイアイキャプテン!」

「13番GRです!船長、早く!」

「あいつ何やってる……。シャチ、ベポ、ジャンバール、行くぞ!イヴはここで待ってろ。」

「ええ。気を付けてね!」


ローが船からダッと飛び降りるとを鬼哭を持ったベポとジャンバールもそれに続いた。
シャチはクーラに近付くと、「これ!」とクーラの手に何かを握らせ、先を走る3人を追った。






「……ばいばい。元気でね。」

次第に見えなくなるローの背中に小さく呟いた。

作った拳にぐっと力を入れると、先程シャチに渡された何かがくしゃっと音を立てた。




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