29*魅力的すぎただけさ
クーラが目を覚ますともう日も高くなっていて、時計を見ると昼前を指していた。
起き上がると、くらり、と立ち眩みがした。
(あれ、元気でないな……ローは、さすがに起きてるか。イルカさんに謝りにいこう)
顔を洗って外へ出ると、既に船はシャボンディ諸島に停まっていた。食堂に行くがイルカの姿が見えなかったので、甲板へ出るとローが居た。
「やっと起きたか。」
「ロー。もうシャボンディに着いてたのね。」
「あまり顔色が良くねェな。今日は外に出るな。」
クーラの顔を見るなり、おでこを触り、手首を軽く抑えた。
「少し熱があるな。いきなり色々動きすぎだ。」
「さすがお医者さん。お言葉に甘えて今日はゆっくりさせてもらうわ。明日の楽しみもあるしね。ねえ、イルカさん知らない?お手伝いさぼっちゃったから謝りたいんだけど。」
「気にするなって言ってたぞ。船をつけてる間は食事も出ねェからしばらく手伝いは要らねェと思う。」
「そうなの。」
「何か食いてェもんは」
「うーん、ケーキ食べたいかな。甘いもの食べたい。」
「買ってくるから待ってろ。」
ローはそう言うと船を降りて行った。
やっぱり優しいな、なんて思いながら見えなくなるまでローの背中を目で追う。それから、クルーたちの大部屋へ向かった。
(ペンギン、起きてるかな。居るかな。確かベポの隣だったような。ローが帰ってくる前に行こう。)
またローに怒られないように、話を聞かれないように、ペンギンと話すのはローが居ない時にしようと決めていた。
クーラが大部屋のペンギンのベッドに行くとごそごそと動いている様子だったので「ペンギン」と声をかけるとゆっくりと上半身を起き上がらせた。
他のクルーはみんな島に降りているのか、部屋にはペンギン以外の姿はなかった。
「ふあぁ……んー、イヴか、夜中は大丈夫だったか?」
ペンギンは身体を伸ばす。
「おはよう。ごめん、起こした?夜中は大丈夫だったよ。」
「そうか。あんな船長見たことなかったから、怖かったぜ。……何かイヴ、顔色良くないな。」
「うん、ローにも言われたから今日は大人しくしとく。それで、何か思い付いた?」
「そうだな、今のところは、おれが賞金稼ぎに捕まるフリする、とかだな。ただ、それだと他に協力者が居るんだよな……。シャチに上手く言えば協力してくれるだろうが……うーん」
「そんなことして大丈夫?」
「嘘だってバレればバラされるだけじゃ済まねぇだろうな。やるのは出港前の忙しい時がいいだろうな。上手いことやるさ。」
「ごめんね、これといってお礼はできそうにないけど……。」
「いつかまたこの船に乗るんだろ?その時で良い。」
ペンギンが明るく笑う。
「ありがとう。そうする。ローに一目会えれば、なんて思ってたけど、ここまで気に入られるなんて思わなかったな。……好きになってくれたら、っていう気持ちがなかった訳じゃないけど。大好きだから、幸せなのに、いつかローの気持ちを裏切らなきゃいけないと思うと、辛い、な。」
ぎこちない笑みをペンギンに向けた。
「イヴがやったことは間違ってねぇよ。もし、おれがイヴの立場でも同じことしたと思うぜ。好きな奴に会えるチャンスがあれば会いに行きたいと思うのは当たり前だし、海賊はいつ死ぬか分からねぇ。ただ、大人のイヴが魅力的過ぎただけさ。とりあえず最後の日まで思う存分いちゃついてると良い。」
ペンギンの言葉と笑顔に少し心が軽くなる。
「へへ、ありがとう。じゃあ戻るね。」
クーラは手を振ってにっこり笑うとローの部屋へ戻った。
ペンギンに任せれば上手く行くだろうと、何となくそう思えた。
「くっそ、かわいいな……これで良いとこ見せたら5年後くらいに俺と付き合ってくれねぇかな……」とペンギンはぼそりと言うとまたベッドへ潜った。
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