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「一泊だけでしたがお世話になりました」
イヴが宿の店主にぺこりと頭を下げた。
「ああ、お嬢ちゃんもう体調は平気なのかい?」
「ええ、おかげさまで。あの男の子にもお礼を言っておいて下さい」
「わかった」
早朝、宿を後にした二人は、すぐに船に戻った。
「また気分が悪くなれば言え」
ローが船を出しながら言った。
「ええ、もうすぐだから大丈夫だと思うけれど」
穏やかな波に揺られながら小舟はゆっくりと進み、小さく島が見えてきた。
「あそこ、あそこよ」
イヴが甲板の先に立ち、嬉しそうに島を指差した。
ローは無言でイヴの隣に立っていた。
しかしその表情はどこかぎこちなく見えた。
「ねえ、もしかして……」
イヴが振り返って訪ねるとローは「あ?」と返した。
「緊張してる?」
「……お前は……」
ローはそう言ってイヴの頬を掴み蛸の様な顔になった。
「や、やめふぇ」
「おれが緊張何かする訳ねえだろ」
「ふぇ、ふぇも」
でも、と言いたかったイヴだがうまく言えずローが馬鹿にするように笑い、手を離した。
「でも、さっきからそわそわしてるわ、ロー」
「してねェ」
「ふーん、それなら良いんだけど」
そんな会話をしつつ、小舟は着々とイヴの故郷へと近づいていった。
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