完結
 無表情な月島くんでなくて、困った顔の月島くんで良かったなぁなんて思った。表情があるということがこんなにも安心することだったとは。

「月島くん、好きです。信じられないかもしれないけど、驚くかもしれないけど、本当に好きです。朝失敗しちゃったから、改めて告白しました」

 月島くんは、私がそう言うとぱちりと瞬きをした。なんだかその驚いた顔が可愛いと思った。
 今度はしっかりと彼を見て言えたことに満足したが、気が緩んだのか急におかしくなって笑ってしまう。けど、こんな態度では彼に不真面目だと思われたり、悪戯だと勘違いされてしまうかもしれないと気付いて何度も「本当だよ。嘘じゃないよ」と言うしかなかった。それでも笑ってしまう。どうしてだろう。その空間が、私にとってすごく幸せなものに思えたからかもしれない。

「まさか一日に二回告白されるとは思わなかったよ」

 ため息交じりに少し見下したような顔で月島くんはそう言った。私が告白した後に笑いだしたのも原因の一つだろう。けど、その顔も私は好きだと思った。月島くんらしい顔だからだ。
 そういえば、髪を切った次の日に会った月島くんのことを私はとても怖いと感じたことを思い出した。彼に恋をした今、あの時の月島くんの顔を見たら私はどう思うのだろう。やはり怖いと思うのだろうか。

「僕が君のこと好きだって知ってるでしょ。別にいいよ、朝ので満足したよ。少し邪魔があったけどさ……まぁ、嬉しかった」

 最後の方は小さな声でもごもご言う月島くんが可愛くて、思わず口元がほころんでしまう。ふふ、と笑うと月島くんが一歩近付いて「ねぇ」と少しかすれた声で私をのことを呼んだ。見上げると、月島くんの嬉しそうな顔が見えてきゅっと胸が締め付けられる。きらきらとした瞳がとても綺麗だ。

「名前……」

 はじめて彼に名前を呼ばれた。
 月島くんが、私の名前を呼んでくれた。

「君の名前なんて、一生呼ばないと思ってた。君はあの先輩が好きで、好きで……僕なんて眼中になかったからさ」

 月島くんの大きな手が私の頬に触れ、きゅっとつねった。痛いわけじゃなかったけれど、きっとその顔は可愛くない。きっと、いや絶対に不細工だ。嫌だと言いたいのに月島くんが嬉しそうに笑うからそんなこと言えなかった。嬉しそうな顔がいつもよりずっと年相応の男の子に見えたから尚更。

「ははっ、君、不細工になってるね。ほんと、君は……」


 私の頬を優しくつねっていた手が一度離れ、彼の両手が私の両頬を包むようにして触る。月島くんは、前よりもずっといろんな表情を見せてくれるようになったって思っていたけれど、こんなにも優しい表情も出来るのかと驚く。嬉しくて、やっぱり私は彼が好きだと思った。少しだけ視界がぼやける。鼻の奥がつんとして鼻をすすると一気に泣きたくなった。

「月島くん、私やっぱり蛍くんって呼びたいな」
「……いいよ」

 以前うやむやになったことをもう一度お願いすると、今度はすんなりと了承してもらえた。嬉しくて笑うと、また頬をつねられる。

「なんか生意気」
「なにそれひどい」

 私の頬をつねっていた彼の指が移動して唇に触れた。彼が、すごく意地悪そうな顔でこちらを見ていた。

「好きだよ。僕の彼女になってください」

 蛍くんの綺麗な目が見えない。あたたかい涙があふれてきたからだ。涙もろいわけではないはずなのに、どんどん頬にあたたかい涙が流れていく。彼の「好き」という言葉がびっくりするほど優しかった。
 宜しくお願いしますと言い終わる前に私の唇に触れたのは――

Look at me.

20150302
20200103 再修正

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