完結
 朝、いつもより少しだけ遅くに家を出た。
 寝坊して走って登校したため飲み物が飲みたくなり、自動販売機まで行けば月島くんと出会う。ちょうど朝練が終わったらしく、月島くんも飲み物が飲みたかったようだ。

 月島くんに挨拶をしたら頭にぽんと大きな手がのってきて撫でられた。されるがままに大きな手で頭を撫でれられる。髪の毛ぼさぼさになっちゃうななんて思ったけれど、やめてなんて言えないし、そもそも嫌ではないのだ。
 顔がまっかになってる自分が簡単に想像できる。月島くんを好きだと意識して私にとって、頭を撫でられる行為は嬉しいものでしかなかった。

「ねぇ、月島くん」

 頭を撫でていた手が離れて「なに」と小さな声が降ってきた。その声はとても優しいものだった。どうして今日はこんなにも優しいのだろう。その優しさにきゅんと胸が高鳴って照れくさくなる。

「私ね、わかったよ。私、月島くんが好きだよ」

 ヒャっという小さな声と、ぼすっという何かが落ちた音。
 びっくりしてその声が聞えた方に視線を向けると、山口くんと知らない男の子二人が驚いたような顔で私達を見ていた。途端に私はさっきよりもずっと恥ずかしくなって、その場から勢いよく逃げ出した。

 顔から火が出るようなって、こういう時のことをいうのだろう。
 どうしたらいいのだろう。そもそも、どうして私はあんなにも急に告白をしてしまったんだろう。月島くんには言わなくちゃいけないとは思っていたけれど、もう少しちゃんとしたところで言う予定だった。ちゃんと目を見て好きって言いたかったのに。


 私は本当に馬鹿だ。
 あんな風に逃げてしまっても、月島くんと山口くんは同じクラスなんだから、二人は私がどんなに嫌だと思っても教室にやってくる。そうなると、嫌でも意識してしまう。
 自分の行動が意味わからないし、すごく恥ずかしい。

 山口くんがHRが始まる前にそわそわしていたのを見てしまったから尚更恥ずかしい。私の方をチラチラ見て、申し訳なさそうな顔で謝ってこようとしているのがわかった。そんな雰囲気がすごく伝わってきている。けれども今、私の方がそれに対応できる気がしない。

 HR中、月島くんの座っている方をちらりと盗み見る。目が合いませんようにと思いながら確認すると月島くんはいつも通り無表情で黒板の方を見ていた。その顔を見て、少し胸が痛くなったような気がした。好きって言ったけど、月島くんはまるで何もなかったように普通だったからだ。

 私は、こんなにも普通じゃいられないのに、月島くんはそうではないのだろうか。そんなことを考えて少しだけ悲しくなった。
 目が合いませんようにって思ってたけど、本当は目が合えばいいのにって思ってたんだなって自覚する。もし目が合ったなら、きっと私は満足しただろう。月島くんも私と同じなんだって。

 そんな我が儘な私にちょっと嫌悪した。
 可愛くないな、私。

20150210
20200103 再修正

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