完結
 月島くんに最近見られているような気がする。
 きっと本人にそんなことを言ったら「自意識過剰なんじゃないの」って言われると思うけれど、確かに彼と目が合うことが多くなっている気がする。そしてどうしてか、彼から話しかけてくることが多くなった。

「ちょっと」

 少し気だるげな声で呼びかけられた。
 月島くんは決して私の名前を呼ばない。それはルールでも決めているかのようだった。

「君の友達が呼んでるんだけど」

 どうして僕が使われなくちゃいけないのかなぁなんて言われて睨まれる。ドアの方を見ると、手を振る友人の姿があった。

「入ってくればいいのに、というか普通に呼べばいいのに」
「いやぁ、ちょっと月島くんと話してみたくてさ。ちょうどいたから」
「月島くんが気になるの?」
「いや。ただ周りの女子が気になってる子だからどんな子かなって。はい、これ借りてた資料集。ほんと助かりました。ありがとね」

 友人に手を振って教室に戻る。教室の中に視線を向けると、月島くんの姿を一番に見つけた。

 彼は私なんかよりはずっと有名な男の子だ。
 月島くんは、背が高くて綺麗な顔立ちをしている。彼のことを、名前は知らなくても認識している他学年の生徒はきっと多いに違いない。
 月島くんと私は、違う世界に住む人間なのではないかと考えたことがある。この前山口くんにそんな話をしたら困った顔をされた。山口くんは、そんな風に思ったことはないのだろうか。


「山口くん、月島くん。バレー部の、綺麗な先輩が呼んでるよ」

 さっきの休み時間とは異なり、今度は私が声を掛ける。とても綺麗な女の人に二人を呼ぶように頼まれたからだ。月島くんは私が声をかけるとむすっとした顔をこちらに向けた。

「いつも君は、僕より先に山口を呼ぶね」

 月島くんは、山口くんには聞かれない音量でぼそっとそんなことを言って私の横を通り過ぎて行こうとした。
 いつも一緒にいる二人を呼ぶ時に意識なんてしたことがない。どちらを先に呼ぼうなんて考えたこともない。だから、そうだったっけ、なんて考えてしまう。月島くんが嫌いだとかそういうわけではないが、山口くんの方が話しかけやすいのは確かにある。だから無意識に私はそういう結果を生みだしたのかもしれない。悪意のあるものでは決してなかった。

「月島くん」

 勢いで彼の腕を掴んで、行ってしまうであろう月島くんを留まらせる。
 先輩が待っているのだから、こんなことをしていてはいけないのは十分わかっている。けれども私は、月島くんに何か言わなくてはいけないような気がした。けど、何て言おう。「ごめん」ではもっと悪い方へいくような気がして「そんなつもりじゃなかった」というのも何か違うような気がする。
 何も言えずに月島くんを掴んでいた手を離してしまうと罪悪感がこみ上げてきた。すると、月島くんは少しだけ屈んで今度は私の腕を掴む。

「君は僕をちゃんと見たことがある?」

 彼に悪いことをした記憶はなくて、むしろ今まで関わることがなかったから平和に過ごしてきたような気がする。けれども急に、私はずっと彼に迷惑をかけていたんじゃないかと思い始めてしまった。
 どうして月島くんは、あんなにも悲しそうな顔をしたのだろう。

20141023
20200102 再修正

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