完結
 変な夢を見た。

 何度も何度も、繰り返し先輩に告白する夢だった。
 先輩は困ったような顔をして、それでもありがとうとお礼を言うのだ。彼女がいるんだと、少し照れくさそうな顔をする先輩の顔を見るのは胸がちくりと痛む。けれどもその時だけは私を見てくれているような気がして、そしてそれが夢だと気付いているからこそ、私は先輩に何度も告白をした。

 何回目の告白をしていただろうか。さっきは下駄箱で、その前は校舎裏で、今は図書室。
 私と先輩だけしかいないと思っていた空間に突然彼――月島蛍くんが現れる。彼に気付いた途端、私は図書室で先輩の前に立っている自分の姿を見ていた。そして、私たちを見ていた月島くんを見ていた。とても不思議な感覚だったけれど、それが夢だとわかっていたために特別違和感を覚えなかった。
 第三者の視点で私は自身の告白を見ていた。その時にようやく気付いたのは、先輩は私なんかちっとも見ていなかったということだった。


 私は告白に集中して、そして恥ずかしくていつだって自分の足元や先輩の足もとばかりみていた。告白に答えてくれるから先輩と話せていたつもりだった。けれども先輩は、心ここにあらずの状態でぼんやりとしていた。
 先輩は、そこにいない先輩の彼女を想っていた。私は告白をして、先輩の声だけで困った顔を、照れくさそうな顔を見たような気になっていただけだった。
 夢の中ですら、先輩は私なんか見てくれていなかったのだ。


「ご愁傷様」

 月島くんの声が聞えて、驚いてもう一度彼の方を見る。月島くんは先輩に告白している私の背中を見ていた。悔しそうな顔、軽蔑している顔、泣きそうな顔。彼のことをよく知らない私は、今の彼の表情がどんな感情によって作り出されたものなのかわからなかった。
 私の何度目かわからない告白が終わった後、月島くんは一歩私に近付いて優しく背中を撫でた。その時私は、どうしてか撫でられている自分が羨ましく思えた。


 とても変な夢を見た。

 目を覚ますと途端に所々がもやのようにぼやけ、曖昧になっていった。半日も経てばこんな変な夢のことも覚えていないかもしれない。覚えていたとしても、きっと断片的な内容しか覚えていないだろう。それでももしも記憶に残るなら、月島くんのあの優しい手だけは覚えていたいと思った。


 中学の頃は、先輩のおかげで毎日が楽しかった。例え話が出来なくても、先輩のことを考えるだけで、先輩の姿を見つけただけで幸せだった。きっと今も心のどこかで先輩が好きだ。けれども夢の中ではあるが何十回も告白して、夢ですらその恋が叶わないと知って、もう諦めるしかないのだと理解した。そう思うと、胸を占めていた先輩への気持ちが今までとは少し違ったものへ変わった気がした。

20141004
20200102 再修正

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