完結
「ご愁傷様」

 月島くんはそう言って私の横を通り過ぎて自分の席へ座った。
 どうして、わざわざ話しかけてくるような行動を取ったのだろう。月島くんって女の子と積極的に関わるイメージがなくて、むしろ話しかけてる女の子に不快だというような顔をしてたような記憶がある。
 月島くんがヘッドホンで音楽を聴き始めて、ようやく私は溜め息をつくことができた。怖かった、すごく。

 高校に入って彼と関わるきっかけを作った覚えはない。だからどうしてあんなことを言われたのかわからない。何が原因なのか。そもそもどうして気付かれたのか。意味がわからなくて授業中ちらちらと月島くんの座っている席の方を見てしまった。
 月島くんの髪に光が当たってきらきらしていて、とてもきれいだった。月島くんってかっこいいんだなと、その時気付く。
 中学生で既に彼は背が高く、女の子は彼に興味津々のようだった。月島くんに好意を抱く女の子の存在は何人も知っていたけれど、私は先輩に好意を抱いていたから彼へ意識を向けたことはなかった気がする。
 勉強している姿を見ると、なるほど確かに彼は女の子に人気が出そうな外見だった。
 そんな事を考えていると丁度プリントを後ろへ回していた月島くんと視線が合う。朝の言葉を思い出し、慌てて視線を外す。すごく、どぎまぎしてしまう。私、彼を怒らせるようなこと、言ったことないよね?

 けれどわざとらしかったかもしれない。
 プリントを後ろの席へ回す時、少しだけ視線を彼の方へ向けるともう彼は黒板の方を見ていた。

 月島くんのことが苦手というわけではない。けれども、月島くんは他の子とは少し違う雰囲気を醸し出しているような気がして、どう反応すればいいのかがわからない時がある。大人びていて、他の子と距離をおいている。山口くんはどうやって仲良くなったのだろう。


「あっ、名字」

 放課後、掃除を終えて部活へ行こうと意気込んでいたところ、ぽんと肩を叩かれる。
 振り向くと、山口くんと月島くんが立っていた。月島くんの存在に驚いて「ひぃ」という間抜けな声を出してしまう。月島くんが、むっと不機嫌な顔になった。

「隣のクラスの女子から部活に関しての伝言。『まず職員室前集合』だってさ」
「部活関係ないのにありがとう。了解です」

 山口くんは月島くんの不機嫌な表情にはあまり気にならないようで、月島くんに「じゃあツッキー部活行こう」と言って教室を出ようとした。しかし何故か月島くんはじっと私を見て、山口くんと一緒に部活へ行こうとしない。

「ねえ、君は僕に何か聞きたいことがあるんじゃないの?」

 ちょっと意地悪な顔をした月島くんが私の目の前に立つ。少し離れた場所にいる山口くんは少し驚いたような顔をして、でもすぐに月島くんの様子を観察するように見ている。教室には疎らではあるが生徒がちらほらいて、月島くんの声に反応した女の子がちらりと彼の方を見た。

「ある、よ」
「聞かないの?」
「気になるよ。聞きたいけど、聞くのが怖いのが正直なトコ」
「怖いことなんてないよ」

 たぶん、と彼は少しだけ困った顔をする。
 あれっと思った。その顔がちょっと意外に思ったのだ。

「でも部活あるからさ。月島くんも部活でしょ」

 山口くんの方を見れば、彼はちょっと慌てたような様子で教室にある時計を見た。

「そうだね。じゃあ今度教えてあげるよ」

 その時の月島くんの表情は今までにないほど満足げだった。
 月島くんの話は気になるけれど、ちょっと怖くて聞きたくないとも思ってしまう。
 怖いなぁと思う反面、その月島くんの表情にはどきりとした。月島くんはじゃあねと、これまたイジワルそうな顔で手を降って教室を出ていった。

20140927
20200102 再修正

- ナノ -