完結
 髪の毛が綺麗ねとほめられることがここ数年増えた。それがすごく嬉しくて髪には気をつけるようになった。優しく髪を触ると仙蔵のことを自然と考えてしまう。

 私の髪は仙蔵が切ってくれる。だから私もお返しというように、彼の髪を切る。それが学園に入ってからずっと行ってきたことだった。
 仙蔵は時間をかけて丁寧に髪を切る。優しくて少し冷たい指が地肌に触れるのは未だに慣れない。むしろ年々意識してしまって恥ずかしくなる。愛しいものを撫でるように触れてくる仙蔵に何て言えばいいのかがわからなかった。きっと何も言わなくてもいいし、そういうのは求めてないんだろうけど、不意に自分から好きだと言いそうになるのだから、場の空気というものは恐ろしい。

 仙蔵と比べたら、私の髪は特別賛美されるような髪ではないような気がする。しかし、髪を切る際仙蔵が、お前の髪は綺麗だねと言うのが嬉しくてもっと綺麗になれたらと思うのだ。


「あれ、最近髪伸びてきたね」
 食堂でおばちゃんとおしゃべりしていると、タカ丸くんが一人で食堂に入ってきた。なんでもおばちゃんに頼まれていたものがあったらしい。評判だった団子も買ってみたから名前ちゃんも食べようとお茶を飲みながらそんな会話をしていると、タカ丸くんは不意にそう言った。

「ねぇ、やっぱり一度名前ちゃんの髪、結いたいなぁ。伸びたところ整えるしさ。どうかな、可愛くするよ」

 今も十分可愛いけどねとにっこり笑ってタカ丸くんはそうお願いをしてきた。
 どうしようか迷った。約束こそしてはいないが、数日すれば仙蔵が髪を切ってくれないかと頼みにくる頃ではないだろうか。ということは、私の髪も切ってくれる日が近付いているのだ。
 しかし、先日のことがあり、私は仙蔵に会うことに若干迷っている。あの友人の書き写した言葉を思い出してしまうのだ。

「うーん、どうしよ」
「いいんじゃないか、頼めばいい。迷っているということはそういうことだ」

 先ほどの会話にはなかった声がした。驚いて声の出所に目を向けると、会うことを迷っていた仙蔵がいた。

「私も、今回は町で頼もうと思っていたんだ」

 右の眉がぴくりと動いた。仙蔵が嘘をつく時の癖だった。

20140813
20160928 再修正

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