完結
 昨日の記憶がない。
 タカ丸くんと会って甘酒飲まされて(タカ丸くんにはよく食べ物を与えられるが餌付けされているのだろうか)、級友に甘酒を飲まされて……。
 目が覚めたら同室の友人が、あなたが昨日発言した立花に関することよと丁寧に折られた紙を渡してきた。何を言っているかわからずに折られたその紙を開けば、読んでいられない、恥ずかしい発言の数々がそこにはあった。本当にこんなことを私は言ったのかと目の前にいる友人に尋ねればにやりと笑った。

「そもそも、甘酒そこまで飲んだわけじゃないのに酔っちゃうなんてね。名前はもう飲まない方がいいよ」

 甘酒で酔えるんだ、とタカ丸くんの顔を思い出しながら紙を元の通り折り直す。

「これ、誰が聞いてたの?」
「くのたま全員に決まってるでしょう。なんだか演説みたいで面白くて。まぁ、名前が立花を好きなのは周知の事実だけど」

 さらりと、友人はそう言って笑った。くのたまは恐ろしいと男の子が言っていたのを私は六年目でようやく理解したのだ。


 友人が部屋から出ていったあと、改めて自分がしたとは思えない発言を振り返ってみた。音がしないように紙を開き、ひとつ深呼吸をして友人の綺麗な字を読んでいく。宿題をしていた中、私の演説を書き記したと言う友人が話を盛り上げようと肉付けしているところもあるだろうが、この紙を私に渡したということは多分、実際の私の発言とそこまで異なるわけではないのだと思う。面白いことが好きな子であるが、面倒見のよい性格の彼女のことだ、綺麗な字が紙に綴られている。


 私は、仙蔵が好き。ただ、最近彼は私と距離を置くようになった。だから私は、酔った勢いでその寂しさや苛立ちを言葉に出してしまったのだろうか。恥ずかしい。そしてなんて私は幼いんだろうか。
 手紙が皺になってしまったことに気付いて、ふぅと息を吐いた。

 先輩が好きですと、仙蔵に告白する可愛い後輩の姿を思い出した。あの子も聞いていたんだろうか。聞いていたなら、どんな気持ちだっただろうか。自分が酔っていたとはいえ……。

「最悪……」

 胸のあたりが苦しかった。

20140721
20160928 再修正

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