小学5年生のころ、この頃になるともう体育は出るなと父に命令されていた。私は運動するのは好きだったからなんでと反論したが理不尽に一喝されて終わった。この時の私は自分の膨みかけた胸が嫌で嫌で仕方なかった。それに周りの男子が興味を示すものに全くといっていいほど無関心で、逆に女の子が好きそうなもの、甘い物とか裁縫だとかに興味があった。それも嫌だった。そんなある日、私に天変地異が起こった。初経がきたのである。幸いにもそれが起こったのは自宅で、股から血が出ていると専属執事の田原に泣きついた。田原は気の毒そうに私にそれは生理だと教えてくれた。そこで私は初めて女であることを明かされた。そんな馬鹿なことがあるかと思ったが田原の真剣な顔を見るに本当なんだと思った。そして清水家の事情を聞かされた。当時は本当に本当に悩んだ。

「どうしたんだ透、深刻そうな顔をして」

「なんでもないよ……せい、赤司くん……」

赤司くんのことを騙してるんだと思うとそれが負い目になって名前で呼べなくなった。赤司くんは私がいつも通りに呼ばなくなったことに驚いた顔をしたがなにも言わないで「そうか」とだけ言ってくれた。赤司くんの優しさが有難かった。そこから少し赤司くんとは距離が出来てしまった。なんでも言い合える仲だったのに、紹介する時は“親友”といっていたのに“友達”と紹介するようになった。赤司くんもいつの間にか私のことを苗字で呼ぶようになった。赤司くんと遊べるのは学校の休み時間と少しの休憩時間だけ、そこでバスケを一緒にしていた。しかし赤司くんにも天変地異が起こる。赤司くんのお母さんが亡くなったのだ。赤司くんは葬儀中も凛としていた。でもその背中は哀しそうだった。葬儀が終わり赤司くんは建物の外に出た。私はそれを追って赤司くんの傍による。

「赤司くん……」

赤司くんは振り返ってにこりと微笑んだ。でもその笑顔は無理をしていて、きっと私にしかわからない程度の不自然さだったけど。赤司君に男だと騙してる私がなにを言えるんだろう?そう思ったら何も言えずにその場で立ち竦んだ。何も言えないなりになにかしたい。自分より低い位置にある赤司くんの頭を撫でた。すると赤司くんの大きな瞳から涙が溢れた。私はびっくりして撫でる手を止めた。すると赤司くんがその手を取って私を抱き寄せた。

「すまない、明日には戻っているから、」

「だから少しこのままで」と赤司くんは嗚咽まじりにそう言った。私は赤司くんが元気になるならと赤司くんの背中をさすった。

小学6年生。自分が女だと認められるようになったころ、私はまた悩み始めた。赤司くんが好きなんだと自覚するようになったからだ。いや、赤司くんのことはずっと好きだったのだ。ただ、自分が男の子だと思っていたから認められなかっただけだ。でもこんなこと友達にも、執事の田原にも言えなかった。私は男として育てられている。友達に話したら同性愛者疑惑がかけられてしまうし、田原に話したら父さんに話がいって赤司くんとはもう関わるなと言われるかもしれない。そう思ったらなにも行動できずに中学を迎えた。なにか部活に入ろうとしたけど、文化部は父が許してくれず、かといって運動部にはいるわけにもいかず、でもなにか学校でしたかった私は音楽室でピアノを弾いたり、図書室で勉強をしてから帰るようになった。帰ったら習い事があって大変な日々だったけど、赤司くんのほうがもっと大変そうで心配だった。

「赤司くん習い事増えてるみたいだけど大丈夫?」

「ああ、平気だ。」

私を安心させるように赤司くんは笑う。しかし私は赤司くんだから大丈夫だろうなんて思えなかった。

「なにか僕にできることあるかな?なんでもいいよ、愚痴でもなんでも。」

「ありがとう、でも大丈夫だよ」

赤司くんはそれ以上踏み込ませてはくれなかった。大丈夫と言われた手前、それ以上食い下がることはできなかった。

赤司くんは帝光バスケ部の1軍だ。(1軍に入ったと聞いたときは「なにかお祝いしよう!」と提案したけど、「必要ない」と一蹴されてしまった)そして全中で優勝したらしい。

「すごいよ赤司くん!!!」

「いや、当然のことだよ」

「違うよ!赤司くんたちが頑張ったから優勝できたんだよ!」

「すごいなー!」と感嘆の声を漏らす私に赤司くんは目を見開いた。

「どうしたの?」

「……いや、俺を褒めてくれるのは清水だけだと思ってね」

「赤司くん、出来て当然みたいに思われてるもんね」

そんなことないのに、赤司くんが努力家だからできていることなのに。そう私は思っても、周りは「あいつはなんでもできるから」で流してしまうのだ。

「ありがとう」

「??。なにが?」

赤司くんはお礼の真意を教えてはくれなかった。

そして2年、私は恋心を自覚したままなにもできずに過ごしている。このまま男として一生を終えるのかな……、告白もできずにそんなの嫌だ。でも今更女だと打ち明ける勇気も持てなかった。青峰くんと黄瀬くんの2人に勉強を教えた帰りの電車、赤司くんが私の腕をつかむ。

赤司くんはなにか言いたそうだったけど、結局なにも言わずに私を解放した。いつか告白できる日は来るのだろうか。そんなことを赤司くんと別れて1人の帰り道で思った。

……

清水を見送って電車は発車した。俺はため息をつく。いつごろからか清水は俺のことを名前で呼ばなくなった。“征くん”と呼ばれることが俺は密かに好きだったのだ。

「……いつになったら打ち明けてくれるんだ」

あいつがなにかずっと悩んでいることは知っている。俺にも言えない重大なことだと頭で理解していても心が追いつかない。そしてもう一つ、俺は悩んでいた。俺は清水のことが好きだ。男を好きになってしまうなんて頭がおかしいんじゃないかなんて思ってしまうが、好きになってしまったものは仕方ない。あの日、母親が死んで俺の頭をなでてくれた日、俺は恋に落ちた。俺は自嘲した。

「俺も打ち明けられずにいるのだから、おあいこか。」

親友の男を好きになってしまうなんて、あいつに打ち明けたら優しい清水でもきっと引かれてしまうだろうと未だにこの気持ちら告白できずにいる。

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