「透!危ないよ!」

「大丈夫だよ!」

小学3年生のある日、僕は飛ばされて高い位置の木の枝にひっかかった征くんの帽子を取りに木に登っていた。征くんは心配そうに僕を見上げる。大丈夫だと思っていたんだ。だって僕は運動神経はいい方だったし、身軽だったから。そのおごりが仇になった。

「取れた!」

「透!!!」

枝にひっかかった征くんの帽子を手に取ったと同時に枝がポキリと折れる。僕は高い位置から真っ逆さまに落ちていった。征くんは落下地点まで走って僕を受け止めようとする。ダメだそんなことすると征くんが危ない。そう思った僕は体を捻って落下地点をずらした。すると落下する途中で背中に激痛が走った。とんがって飛び出ていた木の枝に背中をひっかけたのだ。どしんと地面に落ちる。幸いなことに土が柔らかく、打撲だけで済んだ。しかし、背中の傷がすごく痛くて泣きそうになった。征くんは僕の名前を叫びながら僕に駆け寄る。

「ごめん、俺のせいだ。俺が透を受け止めようとしたから……っ!」

頭のいい征くんは自分の行動が余計僕を傷つけてしまったのだと分かってしまったらしい。僕は痛くて泣きそうだったけど、征くんも僕以上に泣きそうな顔をしていて、ここで泣いてはダメだと直感した。

「大丈夫だよ!それより征くん。はいこれ」

「ちょっと汚れちゃったけど」そう言って帽子を渡すと征くんは余計くしゃりと顔を歪ませた。

「早く医者に行こう」

「だいじょーぶだいじょーぶ」

安心させようとこれくらい平気だとジェスチャーするけど、手を動かすだけでも背中に響く。痛みに顔を歪ませると征くんは怒ったような顔をした。

「大丈夫なわけないだろ!」

征くんは携帯電話を取り出して救急車を手配してくれた。救急車で運ばれて医者に背中を見てもらう。両親を呼ばれたが、両親は多忙のため来れないので執事の田原が来てくれた。そこで先生が説明するには、背中の傷は一生残るらしい。それを聞いた征くんはまた泣きそうな顔になった

「すまない。責任はとる」

「どうやってとるんだよ男同士なのに!女の子じゃないんだからこれくらいどうってことない。」

「名誉の負傷だね!」とニッと笑うと征くんは少し笑った。よかった負い目には感じてほしくない。征くんと僕は親友だから。

そこで目が覚めた。

「なんで今更見るかなー……」

私はカーテンを開ける。昔、本当に自分が男の子だと思っていたころ。赤司くんと名前で呼びあっていた。ただ純粋に赤司くんを親友だと呼べていた頃。私は膨らんできた胸をつぶすためにサラシを巻いた。

……

私の家は大変な名家で私はその家の長子だ。清水家は男子相続が定められているが、父は不妊でやっと出来たのが私というわけだ。2子、3子は望めない。ではどうする?と協議した結果私を男とし育てるという結論に至ったらしい。幼い頃は全然よかった。むしろ自分 は男なんだと本気で思っていたし、楽しかった。しかし、成長してきた今は違う。本気で困っている。体育なんてもう出れないし、声変わりしないと周りからからかわれる始末。(プールは昔から父の命令で入ったことがない。)生理のときなんて汚物を処理するのに困る。本当にろくなことがない。朝、登校しながらため息をつく。

「どうした清水、随分と大きなため息だな」

「赤司くん……」

帝光に入って2年になったころ、赤司くんと正門でたまたま一緒になった。

「朝練は?」

「今日から休みだ。」

赤司くんはバスケ部で1軍として活躍している。赤司くんは昔からすごいやつで、運動も勉強もよくできる。全中で優勝したと聞いたとき飛び上がって喜んだら「大袈裟だ」と笑われてしまった。

「あ、そっか、テスト期間だ」

「そう、そこで清水にお願いがあるのだが……」

「なに?」

赤司くんのお願いなら極力聞きたい。なにせ赤司くんは昔からワガママを全く言わず、私を頼ることが滅多にない。赤司くんの頼みなら全力で応えないと!私は気を引き締めた。

……

「赤司、誰だそいつ」

放課後、赤司くんに連れられて正門に行くと、バスケ部の2年1軍メンバーの赤司くんと仲のいい人が勢揃いしていた。(特に仲のいい人は赤司くんに話を聞いていて名前を知っている)

「え、青峰くん同じクラスじゃん」

なんで清水がいんの?なら分かるけど、誰だそいつは傷つく。確かに目立たないほうだけど、そんな存在感ないかなと少し落ち込む。すると同じクラスの緑間くんが「気にするな」とメガネをあげる。

「そいつは人の顔を覚えないやつなのだよ。落ち込むことはない」

「語弊のある言い方するんじゃねーよ」

「よく語弊なんて言葉知ってたな」

「バカにしてんじゃねー!」

そんなことをぎゃいぎゃい言っている。私もなぜここに呼ばれたのかまだ教えてもらってない。赤司くんを見ると青峰くんと緑間くんのやり取りを微笑ましそうに見ていた。

「で、なんでこの方を呼んだんですか?赤司くん」

後ろからにゅっといきなり水色の髪をした男の子(多分黒子くんかな?)がでてきて突然のことに悲鳴をあげる。いつから後ろにいたんだ。ドキドキとうるさい心臓を押さえて落ち着くように深く息を吸って吐くのを繰り返す。

「え、声たっか。女の子みたいっスね」

私の悲鳴を聞いた黄色い髪の男の子(黄瀬くんだろうな)がそんな感想を漏らす。いけない、普段は意識して声を低くしてるけど、 突然のことに地声がでてしまった。

「今日清水を呼んだのは……、その前に自己紹介かな。清水、皆に自己紹介して」

「え!あ、うん。こんにちは、清水透です。赤司くんとは小学生のころからの友達です」

そう自己紹介すると「よろしく!」と皆それぞれ自己紹介してくれた。

「で、なんで清水くん呼んだんスか?」

「ああ、それはテストが近いだろ?」

赤司くんがそう言うと黒子くんと緑間くんと紫原くんと桃井さんは察したようだが青峰くんと黄瀬くんはハテナマークを頭上に飛ばしていた。

「清水は優秀だからね、勉強を教えてもらうといい。特に青峰と黄瀬。」

赤司くんがそう言うと2人から「ええ!」と不満の声が上がった。

「別にさつきのノート見せてもらうからいいよ!」

「1人で大丈夫ッスよ!」

「黙れ」

赤司くんはにっこり笑う。しかし目は笑っておらずとても怖い。2人も恐怖から1歩後じさった。

「お前ら2人の面倒を1辺に見るのは面倒だ。かといって放置することもできない。だから助っ人を呼んだ。何か文句が?」

「テツと緑間とさつきと紫原がいるじゃねーか!」

「そうッスよ!!なにも助っ人呼ばなくても!!」

「なあ!」と反論する2人が黒子くんと緑間くんと桃井さん紫原くんを見る。黒子くんは困った顔を、緑間くんは嫌そうな顔を、桃井さんは目をそらし、紫原くんはお菓子を食べていた。

「すみません、僕は国語しかできないので……」

「お前ら2人に物を教えるとか絶対に嫌なのだよ」

「1人だけでも荷が重いよ」

「俺、人に教えるの苦手なんだよねー」

4人がそう言うと青峰くんと黄瀬くんは悔しそうに顔を歪めた。

「清水、いいかい?」

赤司くんが確認するように私の顔を見る。私はどんと胸をたたいた。

「もちろん、赤司くんの頼みは断らないよ!ただ上手に教えられるかな……」

そんな私の心配をすくいとるように赤司くんはにっこり笑った。

「大丈夫だ。清水は教えるのが上手い。委員会でも助かっている。」

赤司くんは生徒会長を、私は副生徒会長をしている。赤司くんにそう言ってもらえるのは嬉しい。私の頬は緩んだ。

「教えてもらうっつってもどこで勉強すんだよ?図書館とかガヤガヤしちまうから無理だぜ」

青峰くんがブスくれて言う。そんな顔をしてはいるが一応受け入れてくれているようだ。

「マジバでいいんじゃない?」

桃井さんがちょこっと手を挙げて提案する。マジバ?どこだそこは?そう思って首を傾げる。赤司くんはそんな私をみてクスリと笑った。

「ついてくるといいよ」

……

みんなについていくとそこは噂では聞いたことがある所謂ファストフード店だった。私は入口で立ち止まって感嘆のため息をついた。

「僕、ファストフード食べるの初めて!」

「絶滅危惧種ッスね」

黄瀬くんは物珍しいものを見るような目で私を見た。みなぞろぞろとマジバに入っていく。私も後に続いた。ドアボーイいないんだと後から考えるとかなり恥ずかしいことを考えていた。

「え、店員さんに案内されてないのに勝手に座っていいの!?」

皆店員さんの案内が来る前に席を陣取る。なにもできずにウロウロしている私を赤司くんはちょいちょいと手招きした。

「ファストフード店とはそういうものだよ、清水。」

そうなんだと赤司くんの前の席に腰を下ろす。ガヤガヤとうるさい店内もなんだか落ち着かない。赤司くんを見るとなれた様子で涼しい顔をしていた。

「よし、じゃあなんか頼んでくるわ。」

青峰くんが椅子に荷物を置いてどこかに行こうとする。そういえば噂で聞いたことがある。ファストフード店は自分から頼みに行かないとメニューが出てこないと。

「これがファストフード店の洗練なんだね……!」

そう深刻に言うと黄瀬くんはプッと吹き出した。

「清水くんは天然ッスか」

天然と言われるのは心外だ。私は「違うよ」と否定しておいた。青峰くんがそれぞれ注文を聞いてカウンターに向かう。私は何があるか分からなかったので一緒に向かったけど結局なにを頼めばいいのかわからなかったので、青峰くんが「無難にポテトにしとけ」と言ってくれたのでポテトにしておいた。

……

「いやー!清水っちがいてくれて本当によかったっていうか!」

「緑間とかに教わったら“なんでこんなことも分からないのだよ”とか言われそうだもんな!」

行きとは一転上機嫌な2人を見上げる。いつのまにか黄瀬くんは私のことを清水っちと呼んでいた。(曰く、認めた相手には“っち”をつけるらしい)

「赤司っちとかわかりやすいんスけど怖いんスよね!清水っちは優しく教えてくれてよかったッス!」

「2人とも現金ね」

桃井さんが呆れて言う。暗くなった道ををぞろぞろと歩く。駅につくとそれぞれ電車に乗って帰路についた。赤司くんと私は途中まで一緒の路線だ。

「2人とも素直に教わってくれて教えるのも楽しかったよ」

「そう言ってもらえると有難い。」

赤司くんとふたりきりで電車に揺られる。ガタンと電車が揺れて私は赤司くんの方へ倒れかけた。

「おっと」

赤司くんはなんなく私をささえてくれた。触れられたところから熱が集中するようだ。赤くなりそうになる頬を見られないように顔を逸らした。

「気を付けて、清水はもう少し体幹を鍛えた方がいいね」

「う、うん。ありがとう……」

そこで私の最寄り駅についた。助かったと逃げるように降りようとすると、赤司くんは私の手を掴んだ。

「赤司くん?」

「……………清水は、」

赤司くんは気難しそうな顔して私を見上げる。しかし、すぐに笑顔になった。

「なんでもない、気をつけて帰るんだよ」

「男にそんな心配いらないって、ありがとう」

そう言って電車を降りた。プシュっとドアが閉まる。私は電車の外から赤司くんに手を振った。赤司くんも振り返してくれた。……いつまでも男の子のままでいたくない。私は赤司くんが好きだ。

-2-

ホオズキにまる

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