きゅう
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中3になった。そろそろ受験を意識し始める頃。私は食卓でこう言った。

「白鳥沢受ける」

「!!」

両親は目を見開いて私を見る。工くんは箸で掴んだおかずを皿に落としていた。

「い、いくらお前が頭いいからといって少し無謀なんじゃないか?」

そう、いくら2回目の人生で勉強のやり直しができたとしても受かるのが難しい、それが白鳥沢。でもここまで育ててくれた両親のために、老齢として面白くなかっただろう私を育ててくれた両親のために、私は白鳥沢を受けたいのだ。

「頑張るよ。大丈夫だから応援してて」

そう言って私はご飯を食べる。今日のご飯も美味しい。両親は顔を見合わせてにっこり笑った。

「そうか、なまえが決めたならもう何も言わない。頑張れ!」

「うん」

......

ご飯を食べ終わり片付けも終わらせると自室(中学に上がったから二人とも自室がある)に行くために廊下にでる。部屋に入る直前、工くんに呼び止められた。

「姉ちゃん」

「?」

「俺、俺も白鳥沢から推薦もらう!だから先に行ってまってて」

そう決意した目で言われる。私が白鳥沢を受けることにした一番の理由。県内一の男子バレー部を有しているから。きっと工くんがここに推薦でやってくるから。私はにっこり笑った。

「まってる」

「!。うん!」

そうして私の受験勉強の日々が始まった。

......

受験勉強を開始したのが夏ごろで、今は冬になった。私は家族と過ごす時間が激減した。朝は早くに家を出て自習室で勉強し、放課後は夕方まで自習室で勉強し、夜は部屋に引きこもって勉強している。(リビングでやろうものなら皆んな遠慮してテレビなど見ないからだ)

ぶっちゃけよう、家族が足りない。夕食のときにするお喋りじゃ足りない。もっと団欒したい。特に工くんと喋りい。工くんは中学に上がっても“くそ姉貴”とは言わずに私の話に付き合ってくれる。話したい。頭を撫でたい。(怒られるが)工くんが足りない。私はそんな欲望を振り払うように頭を左右に振った。

すると部屋のドアがノックされ、工くんが入ってきた。なんだろうとそちらを見ると工くんの手にはコーヒーの入ったカップがあった。

「頑張ってる姉ちゃんに差し入れ」

そんなことをはにかんて言うものだから私は工くんに抱きつきたくなった。しかしこの歳でそんなことをするのは憚れるのでぐっと我慢する。(たまに我慢がきかなくなるが)

「ありがとう」

コーヒーを座ったまま受け取る。コーヒーを受け取っても工くんは部屋から出て行こうとはしなかった。なんでだろうと首を傾げる工くんは少し気まづそうに言った。

「......なんて、口実で実は姉ちゃんとちょっと話したかった。邪魔だよな、ごめん」

そう言って部屋から出て行こうとする。私は慌て出てコーヒーを机の上に置いて工くんの袖を引いた。

「私も、工くんとちょっと話したかった」

「!。......そっ、か」

工くんを見上げると工くんは嬉しそうに微笑んでいた。......ん?見上げる?

「工くんは背、伸びたね。見上げないと顔見えないや」

「!。まあね」

工くんは嬉しそうに笑う。そして「やっとここまで来た」と意味不明なことを言う。そして私の頭にぽんっと手を乗せた。

「勉強頑張って」

「!」

そしてゆるりと私の頭を撫でた。その動作にきゅんと胸が高鳴る。......いやいやなんで高鳴ってるんだよ。血はつながってないけど兄弟だぞ?弟なんだぞ?それに相手は中学生だぞ、私は三十路のおばさん。なにときめいてるんだよ。と自分につっこんでいると工くんは部屋から出て行っていた。

「......勉強するか」

私は温かいコーヒーをすすった。


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