はち「姉ちゃん!」
そう言って呼んだのは進級して中学2年になって半年とちょっとの俺の姉ちゃんで、姉ちゃんは日に日に綺麗になっていくな、なんて身内の欲目だろうか?姉ちゃんはソファに座って読んでいた本から目を離して「なに?」と言った。
「ちょっと立って!」
「?」
素直に立ってくれる。俺は姉ちゃんに少しだけ近づいて手で身長差をはかった。
「あとちょっと......!」
あとちょっとで姉ちゃんを抜く。そのことが嬉しくて小さくガッツポーズをした。すると姉ちゃんは俺の服の袖を引っ張って俺と距離を縮めた。
「!!」
「んー、本当だ。あとちょっとで抜かれるね」
近くなる距離にドキリとする。あと少し動けばキスできそうだ。そんな距離に固まっていると姉ちゃんは離れていった。
「?。工くんどうしたの?」
「な、なんでもねーよ!」
固まって赤くなってる俺を不思議そうに見る。姉ちゃんのこういう無防備なところが嫌いだ。なんて、俺が弟だからだろうなと自覚して辛くなる。姉ちゃんは寂しそうに笑った。
「そっか、もうちょっとで抜かれちゃうのか。」
「?」
不思議に思って首を傾げると姉ちゃんは俺の頭を撫でる。
「もうこんなことも出来なくなるのかなーって思ったら寂しくなちゃって」
「今でもするなよ!子供扱いするな!」
姉ちゃんの手を軽く振り払うと姉ちゃんはますます寂しそうな顔をする。そんな顔をしないでほしいなんて惚れた弱みだ。おずおずと頭を差し出すと姉ちゃんは不思議そうな顔をした。
「......撫でたかったら撫でればいいじゃん」
「工くん大好き!」
今度は抱きつかれる。本当無防備な姉だな!俺はこっそりため息を吐いた。
......
「工聞いてくれよ」
「......何ですか」
バレーの練習の休憩時間に葉山さんに捕まった。ぶっちゃけ葉山さんは好きじゃない。姉ちゃんに好意を抱いてるから。葉山さんは落ち込んだ様子で俺の隣に座った。
「五色に振られた.......」
「はあ、そっすか」
そりゃそうだろ。姉ちゃんの好みは30より上だぞ。なに当たり前のこと言ってんだこいつと見ていたら葉山さんは俺の肩をぶつ。
「なに嬉しそうな顔してんだよ!このシスコンが!」
「え、そんな顔してます?」
「してるよ!」
葉山さんはハーッと息を吐いてうなだれる。
「なあ、五色と上手くいくように取り持ってくれてりとか...」
「絶対に嫌です」
姉ちゃんに彼氏ができる?そんなこと考えたくもない。葉山さんは「だよなー」とため息を吐いた。
「なあ、五色の好みのタイプとか......」
「三十路より上だそうです」
「は!?」
お前に望みはないんだぞという意味で言う。葉山さんはさらにうなだれた。......こんな程度で落ち込むなよ。お前姉ちゃんと他人だろ?頑張ればうまくいくかもしれないのに。......俺なんてどんだけ頑張っても弟止まりだというのに。なんて醜い嫉妬が渦巻く。
「お前今度はなんでそんな俺のこと睨むの?」
「.........別に」
俺がどう足掻いても手に入らないものを持っていて、姉ちゃんを好きな男がいる。その事実が俺を無性に腹立たせた。
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