なな
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私は中学生になった。部活は前世でやってたソフトか剣道でいいやと思っていたが、友達に誘われてバレー部に入った。成り行きで入った部活だが、結構楽しい。私の影響で工くんもバレーに興味を持ち始めた。最近は工くんと一緒に公園で練習する毎日だ。お母さんは私たちに手がかからないようになってきたので仕事で遅くなる日が増えた。だから私がたまに晩御飯を作っている。今日はお母さんとお父さんが早く帰ってきたので家族みんなでご飯を食べる。

「なまえ、学校はどうだ?」

「うん、楽しいよ。友達みんないい子だし、部活も楽しいし。そうだ、工くんと一緒に練習してるけどすっごくバレー上手なんだよ!」

隣にいる工くんが「へへ」っと笑う。お父さんも「そうか」と目を細めた。工くんは1人の時もバレーボールをいじって遊んでたりするので、本当にバレーが好きになってきてるんだろう。興味をもたせるきっかけになった私としては嬉しい限りだ。

「俺も中学上がったらバレー部入る」

「そうか、頑張れよ」

「うん!」

工くんは好物のカレイの煮付けをつついた。

......

ある冬の日。その日は姉ちゃんと練習しようとボールを持って気まぐれに姉ちゃんを待つことにした。まだかなとボールを指の上でくるくる回す。こういうちょっとしたことなら姉ちゃんより俺の方が上手い。すると姉ちゃんが誰かと話しながら帰ってきた。パッとボールから目を離してそちらを見ると、姉ちゃんの隣には姉ちゃんと同い年くらいの男がいた。

「工くん!」

「え、誰?」

男は能天気に姉ちゃんに問いかける。

「お帰り、誰。そいつ」

男を睨むと男は不愉快そうな顔をした。

「学校の友達だよ。男子バレー部なんだ。怪しい人をじゃないから大丈夫だよ」

そう説明される。怪しいか怪しくないかが問題じゃない。姉ちゃんの隣に立っていることが問題なのだ。その男は姉ちゃんと釣り合った身長をしていた。その事実がまた気にくわない。俺は姉ちゃんより背が低い。その差をひっくり返せるのは早くて1年後だろう。

「葉山くん、こちら弟の工くん。来年バレー部に入るかもしれないからよろしくね」

「え!?おとうと!?似てないね」

弟と紹介されたことが腹立たしく思った。俺は姉ちゃんの恋愛対象になりたいのに、悪い虫を寄せ付けたくないのに。葉山と呼ばれた男は「よろしく」と俺の頭を撫でようとする。それを避けて姉ちゃんの腕を掴んだ。

「帰ろう、早く」

強く引っ張って早歩きする。姉ちゃんはなぜか不機嫌な俺に困惑していた。葉山は慌ててついてこようとした。姉ちゃんが無理やり立ち止まる。力の差がここでもでる。俺はまだ姉ちゃんの力には敵わないのだ。

「葉山くん、ここまででいいよ。送ってくれてありがとう」

「でも......」

「もう家近いから大丈夫。葉山くんも早く家に帰ってあげて」

「......分かった。じゃあまた明日。五色」

「うん。また明日」

そう言って手を振る。俺は力一杯姉ちゃんを引っ張った。早く歩くと姉ちゃんはそれに余裕でついてくる。

「工くんどうしたの?何かあった?」

「......別に」

葉山が見えなくなったら俺は速度を普通に戻した。姉ちゃんの腕を離して姉ちゃんを見上げる。姉ちゃんは困惑して顔で俺を見た。

「......さっきの奴と付き合ってるの?」

「え?」

姉ちゃんはポカンとしてふふっと笑った。それがまた腹立たしくて俺は姉ちゃんを睨んだ。

「なに笑ってるんだよ!」

「ううん、私が葉山くんと付き合ってるって思われたのがおかしくて」

姉ちゃんはクスクス笑う。

「付き合ってないよ。ていうか、中学生なんて子供すぎて恋愛対象に見れない」

「え......」

確かに姉ちゃんは大人っぽいけど、でも中学生ですら恋愛対象にならないんだったらそれより歳下の俺はどうすればいいんだ。

「......姉ちゃんの恋愛対象になる人ってどんな人?」

「まあ三十路はこえてないとね」

「みそじ!?」

30歳じゃないか!おっさんじゃないか!姉ちゃんの申告に困惑する。姉ちゃんはおっさん趣味だったのか。いや、問題はそこじゃない。あと18年たたないと姉ちゃんは俺のこと恋愛対象としてみてくれないんだ。そこまで考えてはたっと気がつく。俺たちは兄弟だ。どちらにせよ無理なんだ。俺は悔しくなって唇を噛んだ。

「もしかして姉ちゃんに彼氏できたかもしれないって嫉妬しちゃった?」

「ちがうよ!」

俺は必死になって否定した。だって恥ずかしいじゃないか。後にして思えば「そうだよ」って言って動揺させてやればよかったんだ。姉ちゃんは嬉しそうに微笑んだ。

「そっか、嫉妬してくれたんだ。」

「だから違うってば!」

俺は姉ちゃんを置いて歩き出した。姉ちゃんも俺に続く。

きっと嫉妬の意味を姉ちゃんはもっとずっと単純にとらえている。姉ちゃんにこの恋心を伝える日は来るのかな......。伝えたらきっと姉ちゃんも父さんも母さんも困ってしまうだろうな。俺は自分のかわいそうな恋心に蓋をした。


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