五色くんとぼっち少女
五色に亜美ちゃんを紹介してから1週間がたった。あれから五色と話していない。亜美ちゃんとも昼休みに五色のことを話されるのが辛くて避けている。結果、鷲匠さんのところにずっと入り浸っている。けど、こんな状態で将棋を指してもちっとも楽しくなくて、ずっと鷲匠さん相手に負けている。鷲匠さんは「何かあったのか」と心配してくれたけど、こんなこと言えるわけもなく、私はずっと落ち込んだままでいる。

放課後、私は帰る気にもならず、ある空き教室にいた。そこからはよく校舎裏が見えた。へぇ、こんな場所あったんだと景色を眺めていると、亜美ちゃんと五色がいた。私はまさかととっさに隠れた。

「あの!五色くん!!」

そこからは亜美ちゃんの通る声がよく聞こえた。私は心の中でやめて!と叫んだ。それ以上言わないで!しかし無情にも亜美ちゃんは続ける。

「私、五色くんのことが好きです!」

それを聞いた瞬間、振って、振ってください。と願う自分がいた。五色は「ごめん」と呟いた。それを聞いた瞬間ホッとした。ホッとしたと同時に涙がでた。友達のことを応援できないなんて、なんて女だ。

「うっ......」

ダメだ、私、五色が好き。五色が好き。五色が好き...。

私は泣き続けた。このまま泣き続けて死んでしまえばいいと思った。

......

みょうじに佐藤さんを紹介されてから2週間がたった。最初の1週間はひっつかれていたが、告白されて振ってからはそれもなくなった。

「工ー!!!!」

監督に呼ばれて俺は監督の元にすっ飛んで行った。何かしたか?俺。監督は目を怒らせて「なまえに何した!」と言った。

「は?」

「将棋もわしが連勝してるし、何か話しかけても上の空だ!お前何かしたんだろ!」

「何もしてないっすよ。てか連勝してるならいいじゃないっすか」

「よかない!何よりあの子は元気がない!!一体なまえに何をした!!」

元気がない。その言葉を聞いた瞬間に俺は沸騰した。

「っっっんだよそれ!!!」

監督は俺のいきなりの大声にびくりと肩を震わせた。しかし、俺の沸騰は止まらない。

「いきなり女紹介してきたと思ったら元気がない!?知るかよそんなこと!!落ち込みたいのこっちだっつーの!!」

そこまで一息で言ってハッとする。監督に「すみません!」と謝ると監督はたじろぎながら「お前のせいじゃなかったらいいんだ」と言った。

天童さんが俺の肩にポンと手を置く。

「今日みょうじちゃん、放課後に佐藤さん?って子と話があるみたい。1年4組で待ってるって、」

天童さんは「運がよければまだいるかもね」と言った。なんでそんなこと知ってるんだと思ったら、「立ち聞きしちゃった」と舌をだして答えた。俺はたまらず走り出した。このままじゃダメだ。気持ち伝えないと。監督に「どこいくんだ!」と言われたが、「すぐ戻ります!」と言って俺は1年4組まで急いだ。

......

五色に亜美ちゃんが告白してから1週間、このままじゃダメだ。気持ち伝えないとと思い、亜美ちゃんを呼びだす。亜美ちゃんは「分かった」と言った。私が何を言うつもりか分かったのかも知れない。

放課後、1年4組の教室で私は世間話を始めた。違う!こんなことを言いたいんじゃない!と思うも、中々言い出せず、時間だけがダラダラ過ぎる。すると亜美ちゃんが何か決心したような顔をし、「私に何か言いたいんじゃないの?」と言った。

「うん...」

私は深く息を吸って、吐いた。誰かが走っている音が聞こえる。

「私、五色のことが好き。」

「うん」

そう言うと亜美ちゃんは「やっぱりそうだったんじゃない。バカね」と呟いた。

「私は振られちゃったけど、なまえちゃんは頑張れ!」

そう言って肩をどやされる。私は泣きそうになった。自分も辛いはずなのに、私のことを応援してくれる。私は掠れる声で「うん」と呟いた。亜美ちゃんは笑う。そして教室を出て行こうと扉をガラリと開ける。

「ご、五色くん!?」

亜美ちゃんはひっくり返った声で叫ぶ。柱の影からのそりと五色が出てきた。

「みょうじ...」

「う...あ...」

聞かれた。そう思うと体が勝手に五色から逃げた。幸いここは一階で、窓からたやすく逃げられた。遠くから五色の「まて!」という声が聞こえる。私は無視して走った。

......

1年4組まで行くと、窓から人影が見えた。よかった、まだいた。と思い、扉に手をかけようとすると、「私、五色のことが好き」と言うみょうじの声が聞こえた。俺は思わず固まる。そして柱にもたれかかり、まじか、と思った。何だ、両思いだったんじゃん、俺ら。そう思うと足音がこちらに近づいて来た。とっさにどこかに逃げようかと思うも、ここに来た目的を思い出し踏みとどまる。すると扉を開けた佐藤さんが「五色くん!?」と驚いた声を出した。俺は柱の影からでて、「みょうじ...」と呼んだ。するとみょうじが窓から逃げた。「まて!」と言うも無視をする。

「くそ!俺の方が足速いっつーの!!」

そう言ってみょうじを追いかける。佐藤さんは遠くから「五色くん頑張れ!」と言った。あんたいい女だわ。振っちまったけど、幸せになって欲しい、単純にそう思った。

必死になってみょうじを追いかける。しばらくすると疲れたのかみょうじが減速した。その隙をついて一気に距離を詰める。

「待てって言ってるだろーが!」

そう言ってみょうじの腕を掴む。みょうじは「離して!」と手を振り払おうとするも、こいつの力じゃたかが知れてる。みょうじの顔を見ると今にも泣きそうな顔をしていた。

「離してって言ってるでしょ!ばか五色!!」

「ぜってー離さねぇ!!」

「バカバカ!振るつもりなんでしょ!?なんで追いかけてくるのよ!!」

「はあ!?」

俺は驚愕した。振るつもりで全力で追いかけるやつがどこの世界にいるんだよ!するとみょうじが泣き出した。俺が慌てているとみょうじはなおも泣き続ける。

「...私が素直になれるまで待ってよ。せめてバカとかアホとか言わずに済むまで」

そう言ってひっくひっくと泣き続ける。俺はみょうじを抱きしめた。みょうじの息を飲む音が聞こえる。

「アホ、そんまんまでいいよ。俺はそんなお前が好きだよ」

そう言ってみょうじの顔を見ると、ポカンという顔をしていた。「返事は」と言うと、「嘘...」という言葉が返ってきた。

「お前!人の告白を嘘って何だよ!」

「だって!私素直じゃないし!ちっともかわいくないのに...」

最後までは言わせなかった。俺はみょうじの口を俺の唇で塞いだ。するとみょうじは顔を真っ赤にした。俺の顔もみょうじに負けず劣らず真っ赤だと思う。

「...信用したか」

「...まだ足りない。」

「だからもう一回」と言って今度はみょうじから俺にキスをした。背伸びをしても足りなかったのか俺を軽く下に引いた。

「さっきまでメソメソ泣いてたやつとは思えないな」

「立ち直りが早いのが私の良いところなのよ」

俺たちは笑いあった。この後、監督にしばかれ、バレー部のみんなにからかわれたのはまた別の話。


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