「五色!私、友達できた!」
夏休みも終わり1週間が経った頃だろうか、みょうじは嬉しそうに報告してきた。こいつの言う友達とは犬や猫じゃなかろうな。そう思い「ちゃんと人間か?」と聞くと「失礼ね!ちゃんと人間よ!」と返事が返ってきたので本当なんだろう。
「へぇ、お前と友達になってくれる奇特な奴が俺以外にもいたんだな」
「五色みたいに大雑把に扱ってないからね!」
「おい、俺だったら雑に扱っていいわけじゃないからな」
こいついわく、あるクラスとの合同実験で同じ班になったのがきっかけらしい。その奇特な人は毒舌を言うこいつにも優しく、また口の悪いこいつをたしなめたらしい。なんていうか、変な奴というのは結構いるものだ。変な奴の名前は佐藤亜美というらしい。
「今日のお昼ごはん一緒に食べようって約束したの!」
「へぇ、ヨカッタネ」
こいつが一緒に誘ってくれることはもうないかもしれない。そう思うと返事が棒読みになってしまう。みょうじは気にした風もなく嬉しそうに頷いた。
......
亜美ちゃんとお昼ごはんを食べるようになってから2ヶ月が経った。亜美ちゃんは相変わらず優しく、私の毒舌がでるとたしなめてくれる。五色と食べることが減ってしまったのが残念だ。
亜美ちゃんが顔を赤くしてもじもじしながら聞く。
「なまえちゃんてさ、五色くんのこと、好き?」
「だっれがあんな奴のこと...!!!」
私は頬に熱が集合するのが分かった。亜美ちゃんは私を見ずに「よかった」と呟いた。その言葉を聞いたとき、私の胸はざわついた。
「私ね、五色くんのことが好きなの」
亜美ちゃんは頬を赤くして言う。私はその言葉を聞いたとき、鈍器で頭を殴られたような感覚に陥った。
「だから、協力してほしいの」
できればその言葉は聞きたく無かった。私の暗い様子に亜美ちゃんは「なまえちゃん?」と不思議そうに聞く。
「お願い!こんなこと頼めるのなまえちゃんしかいなくて...」
亜美ちゃんは私の手を掴み、私の顔をしっかり見て言う。私は思わず頷いてしまった。亜美ちゃんはパッと花が咲いたような笑顔を私に向ける。
「ありがとう!」
「う...うん。」
私はこの世の終わりのような気分だった。
......
放課後、部活動に行こうと席を立とうとした時、みょうじが話しかけてきた。
「五色、ちょっといい?」
「なに、手短にな」
みょうじは入り口の方を向き、ちょいちょいと手を振る。すると髪をくるんと巻いた可愛らしい女の子がこちらに向かって来た。
「前に話した佐藤亜美ちゃん。」
「は、初めまして!五色くん!」
佐藤さんは顔を真っ赤にして言う。俺は何となく分かってしまった。分かってしまったことでみょうじを冷たく見る。みょうじはバツの悪そうな顔をした。
「...あんたのファンよ」
「ちょっとなまえちゃん!」
佐藤さんは赤い顔のままみょうじを揺さぶる。みょうじは引きつった笑みを向けて「本当のこと言っていいの?」という。佐藤さんは「ダメ!!」と叫んだ。みょうじは「顔合わせ済んだし私帰るね」とさっさと帰ってしまった。紹介した理由を繕いもしない。佐藤さんと俺だけが残される。
「.........。」
「あの!五色くん。今日練習見に行っていいですか!」
まさかダメとは言えず、「いいよ」と言うと佐藤さんは嬉しそうに「ありがとうございます!」と言った。
......
その日の部活は荒れに荒れた。先輩たちにこぞって心配されてしまった。俺もまだまだ未熟だなと着替え終わって帰ろうと校門に向かうと、そこには佐藤さんがいた。ここまでぐいぐい来るとは思わず、俺の顔は引きつった。
「あの、一緒に帰っていいですか?」
佐藤さんは赤い顔で聞く。みょうじの紹介なので無下にもできず「いいよ」と言うと天童さんが不思議そうに「みょうじちゃんは?いいの?」と俺に聞く。そんなの、俺が聞きたい。
「知りませんあんな奴。佐藤さん、帰ろうか」
「はい!」
天童さんは「乗り換えたのかな?」と不思議そうに呟いた。俺はそれを聞かなかったことにして無視した。そうしないとキレそうだった。
電車までの道のりを佐藤さんと歩く。佐藤さんは色々話しかけてくれたけど、俺は適当に頷いているだけだった。ホームにつき電車の方向を聞くと、真反対でホッとした。
「あの!明日も待ってていいですか?」
そう聞かれて答えに詰まった。いいよとは言いたくない。けれど、ここで蹴るのもおかしい。そんな雰囲気。そこにちょうど電車がきた。俺は助かったと電車に乗り、「また明日」と微笑んだ。微笑んだことで誤魔化せたのか、佐藤さんは顔を真っ赤にして「また明日!」と言った。明日なんて来なけりゃいい、なんて無茶なことを思ったりした。