五色くんと大学生ぼっち少女とバス
合宿も数日がたった。これから練習試合だ。俺は集中力を高めるために目をつぶる。すると田代さんが話しかけてきた。

「五色くんはさ、みょうじさんのことが好きなの?」

「!!!」

何をいきなり言いだすんだこの人は!俺は「違いますよ!」と叫ぶ。田代さんはニンマリ笑って「そうなの?」と言った。

「...囲まれてるわね」

「は?」

「みょうじさん。見えずらいけど練習試合相手の大学生に囲まれてる」

そう言われて田代さんが見ている方向を見ると、大学生の円の中心にみょうじがいた。俺はそこに向かおうとする。

「助けなくていいじゃない。なんとも思ってないんでしょ?」

「!!」

「あの子、しっかりしてるようで隙だらけだから一回痛い目見た方がいいと思うのよね」

田代さんの言うことは道理で、確かにあいつは隙だらけだ。痛い目を見た方が少しはガードもかたくなるだろう。ここはみょうじのためにも助けないほうがいいのかもしれない。

「.........。」

だめだ、我慢できない。なんとも思ってないわけないだろう。ああ、そうだ。認めてやるよ。俺は意地っ張りで時々素直になるみょうじが好きだ。円の中心に向かうべく、足を動かした。

「青春ね」

田代さんがなにかつぶやいたけど、俺には聞こえなかった。

......

「みょうじ!」

円の中心に分け入るとみょうじは頭を撫でられていた。その手を払う。するとみょうじがこちらを見上げる。その顔はあからさまにホッとしていた。大学生たちは不審そうに俺を見る。

「すいません、こいつになんか用ですか?」

大学生たちは「なんだよ、彼氏持ちかよ」と悪態をついて離れていった。そういえば、今日の練習相手は男子ばかりの学部だったなと思い出す。女に飢えているのかもしれない。

みょうじはへなへなと床に座り込んだ。背の高いやつらばかりだったから怖かったのかもしれない。

「...来るの遅い」

「助けてやっただけ良いだろうが」

そう言ってみょうじに手を差し出す。みょうじは素直に受け取って立ち上がる。

「エンジェル先輩の貞操守れてよかった」

「は?」

「聞かれたのよ、エンジェル先輩の連絡先教えてって。まあ知らないんだけど、無言でやり過ごしたら今度は名前教えてって」

「これも無言でやり過ごしたけど」とみょうじは言う。

「お前が口説かれてたんじゃないのか?」

「は?違うけど?でもベタベタ頭とか触られたのは気持ち悪かったかな」

それは口説く直前に俺が来ただけではと疑問に思う。てか絶対そうだろ。「彼氏持ちかよ」って悪態ついてたし。

「お前いつもの毒舌で追い払えよ、あんな奴ら」

「私が失礼して、今度から練習試合してくれなかったらバレー部に迷惑かかるでしょ!」

俺は面食らう。結構俺たちのことを考えてくれているのかもしれない。しかしそんなこと気にして抵抗しないとかアホだ。

「とにかく、エンジェル先輩の貞操守れてよかった」

「...そうかよ」

俺は気に食わなかった。こんなときまで田代さんのことかよ。助けたの俺だぞ。田代さんなんてつっぱなし路線に入ってたんだぞ。するとみょうじが言いづらそうに口をモゴモゴとさせる。なぜか少し顔があかい。

「ま、まあ、半分は五色のお陰といっていいかもしれないわね。追い払ってくれたし」

「?。そうかよ」

「だから、その...。あり、ありがとう」

少し、ではなく、顔を真っ赤にさせたみょうじが言う。田代さんの貞操云々はお礼を言う前振りだとわかったら、いじらしくてみょうじを抱きしめたくなった。かわりに俺はみょうじの頭を撫でた。みょうじは気持ちよさそうに目を細めて、ハッとして「なにすんのよ!」と俺の手を払った。

「お前練習試合良く見とけよ。コテンパンにしてやるから」

「?。牛島先輩が?」

「俺がだよ!なんで牛島さんがでてくるんだ!」

集合の合図がかかる。俺は急いで監督の元に走った。

「わかってるよ。がんばれ五色」

というつぶやきは聞こえないふりしてやり過ごした。しかし、ニヤける顔を抑えるのに大変だった。

試合は圧倒的だった。後で天童さんに「今日の工はいつもと違った」と言われた。

......

帰りのバスに乗り込む。隣はきっとエンジェル先輩だろうなーと思ってたらエンジェル先輩は私の隣をスルーしてもう一個後ろの席に座る。

「!?」

エンジェル先輩の隣は天童先輩だ。よくも私のエンジェル先輩をとったなと後ろを睨むも、座席が高いので空ぶるばかりである。じゃあ隣は誰だろうと横を見ると

「げ、五色」

「お前かよ」

そう言って五色は顔をしかめる。そして私の隣に腰掛けた。

「なんでエンジェル先輩じゃないのよ」

「知らねーよ。適当に詰めたらこうなったんだろ」

後ろにエンジェル先輩がいるので小声で話す。五色もそんな私に釣られてかヒソヒソと喋る。小声でやり取りするために顔が近くなる。不意にそれが意識されて私はパッと顔を上げた。

「ま、まあ、五色で我慢してやるわ」

「よく言うぜ」

五色はニヤリと意地悪く笑った。

「俺しか友達いないくせに」

「!!」

そう言われた瞬間に肩パンしてやったら五色は声をだして笑った。しばらくするとバスが出発した。すると隣から寝息が聞こえてきた。一瞬邪魔してやろうかという考えが浮かぶが、疲れてるんだろうなと思ってやめといた。バスがガタンと揺れた。すると五色がこちらに倒れ込んでくる。五色は私にもたれかかるように眠る。

「ち、ちょっと!」

私は五色を押し返そうとする。しかし重くて全然動かない。五色はこんな状況でもよく寝ている。いっそ叩いて起こしてやろうかと思ったとき、上から声がした。

「工疲れてるみたいだし、そのままでいてあげてくれない?」

声の主は天童先輩で、座席から身を乗り出して私に話しかけている。私はふてくされた声で「わかりました」といった。天童先輩は声をだして笑った。もしかして、心の中でラッキーなんて思ってるのを見抜かれているのかもしれない。

五色が起きた時に「うわぁあ!」なんて奇声を聞けて小気味よかった。


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