ぼっち少女と合宿
朝、電車のホームで五色に会う。五色は私にかち合ったあの日からも電車の時間を、変えないでいる。その事実が少し嬉しかったり、なんてしないしない。

「はよ。」

「おはよ。」

五色は挨拶すると挨拶を返してくれる。嫌われているだろうに返してくれるところとか、優しいと思う。

「あのさぁ」

「なに」

「3年の田代先輩ってわかるか?マネージャーの」

「ああ、マイスイートエンジェル先輩」

「は?マイスイート??」

「心の中でそう呼んでんのよ」と言うと「心の中におさまりきってねーぞ」と突っ込まれた。

「田代さんがさ、合宿中来て欲しいってさ。手伝って欲しいみたいだな」

「何でそれを五色が言うのよ、マイスイートエンジェル先輩じゃなくて」

「なげーよ。しかも恥ずかしくないわけ?俺とお前仲良いって認識されてるみたいで、俺から言ったほうが勝率いいって思ったみたい。」

「ほっといて、恥ずかしくなんてないわ。そんな!エンジェル先輩に頼まれた方が私は嬉しいのに!」

「略すなよ。なに、お前なんで田代さんにそんなに懐いてるわけ」

「長いって言ったのどこのどいつよ。エンジェル先輩こんな私にも優しいから」

「チョロ」

「ぶっ殺すわよ」

そんな会話をらしてたら電車が来た。私たちはギャーギャー言いながら学校に向かったのだった。

......

合宿初日、私は遠征地に行くためにバスに乗る。結局合宿を承諾した。理由としては家にいても1人でつまらないし、エンジェル先輩の頼みだ。それに、五色に会えなくなる...なんては思ってはいない。思ってないってば!

私の席は1番後ろの席で隣はマイスイートエンジェル田代先輩だ。隣に腰掛ける。至福である。エンジェル先輩は嬉しそうに笑って「私、みょうじさんに聞きたいことがあったの」と言った。

エンジェル先輩は私に耳打ちをする。

「みょうじさんて五色くんのこと好き?」

「!!!」

私は勢いよく立ち上がった。

「だれがあんな不躾なやつ!!!」

「あんたアホ?」という言葉はすんでのところで飲み込んだ。あまりに声が大きかったのか既にバスに乗り込んだバレー部の皆さんがこちらを一斉に振り返る。私は「すみません」と言って席に座りなおした。エンジェル先輩はニマニマ笑っている。

「そうなの?」

「そうです!私はあいつのことこれっぽっちも、全然!」

「わかったわかった。」

そう言ってエンジェル先輩は私の肩をポンポンする。なにかまだ勘違いしているような気がするけど、わかったと言われた以上もうどうしようもできなかった。

......

合宿所につくと荷物をおろしてすぐに体育館に入る。そこで選手たちは鷲匠さんやコーチの言うとおりに練習する。休憩に入り、使用済みタオルを籠に集めている時、五色が寄ってきた。

「田代さんとなに話してたんだ?」

「五色には関係ないでしょ。タオルください」

私はタオルを選手から集めながら対応する。五色は不服そうに私の後をついてくる。

「でも話してたの俺のことだよな?不躾なやつなんてお前の中で俺しかいないだろ」

「違うわよ!誰があんたの話してたのなんかするのよ!タオルください。」

「じゃあ誰の話してたんだよ!」

「誰だっていいでしょ!」

そう言ってタオルを集め終わったので早足で体育館の外に出ようとする。すると、床が汗で濡れていた。私は滑って後方に倒れた。

「!!!」

「危ね!」

痛みがくると思うも、いつまでたっても来ない、それもそのはずで、五色に支えられていた。五色に触れられている部分に熱が集中するようで、顔が赤くなりそうだ。

「は、はなしなさいよ!」

「助けてやったのに何だその言い草は!」

「元はと言えば五色が悪いんでしょ!」

「なんだと!」

五色はプンスコしながら「何てやつだ」と離れていった。私はまだ心臓がドキドキいっていた。後でお礼くらい言えばよかったと後悔した。

......

合宿の1番の鬼門は食事だった。とても美味しいのだがいかんせん量が多い。適当にお惣菜をつまむという食生活をしている私にとったら辛い。お昼は根性で完食したが、夜になるとまだ消化しきってない所に更に多くなった食事が提供された。

「五色、半分あげる」

「は?自分で食えよ」

隣に座ってる五色に話しかける。しかし五色は「お前ちょっと痩せすぎだから、これくらい食べろ」と親心的なものを発揮している。とても迷惑だ。

「私は五色にもっと大きくなって欲しいから言ってるのに!」

「嘘つけ!」

「嘘じゃないわよ!ほら見て五色!このハンバーグ五色に食べてもらいたがってるよ!」

「わかるか!そんなこと!!」

「わかるわよ!ほら!僕を食べてよ五色くん、って言ってるわよ!」

「言ってねーよ!」

ぎゃあぎゃあ言い合っていると真正面に座っている牛島先輩に「やはり仲がいいな」と言われた。

「「仲良くないです!」」

牛島先輩に向き直っていうと、五色も同じタイミングで言う。

「真似すんな!」

「そっちこそ!」

牛島先輩を見ると不思議そうに首を傾げていた。斜向かいの天童先輩が口を抑え、肩を震わせ笑っていた。

やはり量が多く、半分くらいで私は一旦箸をおく。そして腹を抑えて苦痛の表情になる。辛い、本当に辛い。1日にこんな量を食べたことがあっただろうか。私頑張ったじゃん。もう残していいんじゃね?と思うもそれは私の流儀に反する。食べ物を残しちゃいけませんとは、数少ない両親との約束なのだ。私はもう一回箸をとる。野菜類は食べ切れた。後はハンバーグ1個だ!食べれる食べれる!と自分に暗示をらかけるも、やはり辛い。そんな私の様子を見かねて五色がハンバーグを半分に割る。

「ほら、半分食べてやるから、後は自分で食べろよ」

「五色...!」

私は感動して、お礼を言おうとするも、口は「あんたが食べたかったんじゃないの?」と反対のことを言う。五色は怒ったが、結局半分食べてくれた。

......

入浴を済ませ、共同区画に向かう。五色にお礼を言うために、そこに五色がいるかどうかは賭けだが、幸運なことに五色は自販機に飲み物を買いに来ていた。私は五色の側まで寄る。

「よお五色」

「おお」

「どうした」と五色が不思議そうに尋ねる。私は少し逡巡して、五色の袖口を掴む。自分に逃げるなよと追い込むために。五色は驚いたように目を見開き、掴まれた袖口を見る。

「あのさ...、昼間助けてくれてありがとう」

「!」

「夜もハンバーグ食べてくれてありがとう、助かった」

私はそれだけ言うと走って女子区画まで逃げた。だから五色が真っ赤になってたことも知らないし、「お前の急に素直になるとこ反則だろ...!」と呟いたことも知らない。ついでに言うと動揺した五色が自販機でジュースを買い忘れて部屋で不審がられたことも知らない。


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