06


吾輩は猫である。名前はまだない。どころか今死にそうだ。僕はまだ子猫だけどみそっかすすぎて母親に見捨てられた。だからお腹が空いて死にそうだ。誰か助けてくれないかなあ、なんて思って鳴いてみるけど道行く人々は僕を気にしてもチラリと一瞥をくれるだけでそのまま素通り。あーあ、世の中って結構厳しいね?
すると1人の少女が僕の前にしゃがんだ。

ねえ、助けてよ。

にゃーと力の限り鳴いてみたけど、体力がなくて声は思ったよりも出なかった。少女は驚いたように目を見開く。

「ねえ、今助けっていった?」

言った言った。中々察しのいい人間だね。お腹が空いて1歩も動けないんだ。お願い、助けて。

そう言うと少女はまだ驚いたように目を見張る。

「動物の感情もわかるように……、ていうか意識を集中させれば触らなくてもわかるようになってる……」

なにかブツブツ呟いてるけど、助けるなら早くしてよ!僕はにゃー!っと催促する。すると少女は慌てたように「ごめん」と言った。

「お腹空いてるんだよね!?なに食べれるの!!?」

少女は僕を抱き上げると走り出した。言ったってどうせわからないだろ。

「わかるよ、だから教えて!」

今度は僕が驚く番だった。こいつ人間のくせに猫の言葉を理解してる。どうなってるんだ。動揺しつつも答える。

お母さんが吐き出した食べ物だよ。

「離乳食ってこと?わかった!」

少女はどこかの家の扉をノックする。自分の家なんじゃないの?と思っていたら赤毛に目の周りにすごいクマがあるやつがでてきた。そいつは僕に一瞥をくれるとすぐに少女の方に顔を移した。

「……なんだ」

「あのね!この子ね!お腹空いてるんだって!猫の離乳食ってなにがいいかな!?」

「俺が知るか」

そいつはフイッと外に出ていった。僕達はその場に取り残される。チェっ、冷たいやつ。愛想も悪いし最悪じゃない?そう少女に語りかけると少女はニコッと笑った。

「我愛羅は冷たくないよ、きっと助けを呼びに行ってくれたんだよ」

さっきの奴は我愛羅というらしい。僕にはそうは思えないけどなあ。と思ってたけど我愛羅は数分したら金髪の勝気そうな少女と顔にペイントを施した少年を連れてきた。

「猫を拾ったんだって?」

「はい!まだ離乳食しか食べられないそうです」

「確かにちっちゃえじゃん。生後4、5週間ってところか」

僕達は我愛羅の家に入った。リビングまでくると僕はカイロをタオルで包んでできた簡易式のベットの上に置かれた。あったかい。その間に離乳食を作っていてくれたらしい金髪の少女が食べ物をもってやってきてくれた。僕は急いでそれを食べる。美味しい、数日ぶりの食事は格別だった。

「にしてもこいつどうすんだ?飼うのか?」

「あっ…!」

僕を助けてくれた少女が思い当たったように声を上げる。どうやら僕を助けてくれた先を考えてなかったらしい。

「飼えそうにないなら私がもらってもいいぞ!」

金髪の少女が僕を触る。ちょっと、食事中に触らないでくれる?すると少年も「いや、俺が飼う!」とか言って喧嘩が始まった。まったく煩いなあ、僕が愛らしいのはわかるけどちょっと静かにしてらもらえる?僕は食べ終わったのを見て喧嘩していた2人が「どっちがいい!?」と声をそろえて聞いてきた。
どっちもいやだよ、うるさいのに。僕は少し離れて傍観していて我愛羅のそばまでよって、足に擦り寄った。

「にゃあ」

我愛羅がいいよ、どうやら僕を助けてくれた少女は僕を飼えそうにないしね。
喧嘩していた2人は目に見えて落胆した。我愛羅は無表情だけど、どうやら動揺してるらしい。どうすればいいのかわからず微動だにしない。僕を助けてくれた少女が優しげに笑う。

「我愛羅がいいって」

我愛羅が僕を抱き上げる。エメラルドグリーンの綺麗な瞳が僕を捉える。

「にゃー」

飼って、そう鳴くと我愛羅はひとつため息をついた。

「名前、なににするじゃん?」

少年がそう聞くと、我愛羅が少し考える素振りをして、僕の足を見た。

「……靴下」

へ!!??なんでそんな名前!?いやだよ!もっとかっこいい名前にしてよ!!!抗議しようとすると我愛羅は僕の喉元をこちょこちょと撫でる。ああ!そんなふうに撫でるなよ!気持ちよくて喉がなっちゃうじゃんか!!

「靴下か……、確かに靴下をはいたような模様してるしな。そいつも気に入ってるみたいだし、いいんじゃないか?」

勝気そうな少女がそう言う。ちーがーうー!!僕は気に入ってないの!!これは我愛羅が撫でるのが上手いから!!ああくそ!撫でるのやめろよ!!!気持ちいいじゃんかくそう!ネエ、君なら僕が嫌がってるのわかるでしょ!?僕を助けてくれた少女に目線を向けても、少女は苦笑いして助けてはくれなかった。あー!裏切り者!!!

こうして僕は靴下という名前で我愛羅に飼われることになった。










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